大相撲小言場所


秋場所をふりかえって〜白鵬休場で、鶴竜が混戦制す〜

 今場所は日馬富士が全休。白鵬が初日には隠岐の海に一方的に寄り切られ、2日目には嘉風の引きにばったりと手を突く連敗。そして横綱昇進後初めての休場が発表され、横綱は鶴竜一人に。優勝争いを引っ張っていったのは照ノ富士だった。初日から11連勝。しかも不利な体勢でも怪力で跳ね返す力強さ。独走かと思われた。
 優勝争いが期待された鶴竜は3日目に嘉風に押し出されると、10日目には妙義龍に一方的に寄り切られ、2差をつけられる。稀勢の里は10日目までに3敗と優勝圏外に去ったと思われた。11日目まで1敗で照ノ富士に食らいついていたのは平幕の勢ただ一人。しかし、12日目から優勝争いは混戦模様となる。照ノ富士が栃煌山に中にはいられ寄り切られて1敗を喫すると、12日目には稀勢の里に寄り倒され、左膝の靱帯を傷める。力の入らない照ノ富士は14日目に豪栄道に一方的に寄り切られた。14日目には鶴竜と稀勢の里が優勝争いのトップをかけて対戦したが、鶴竜は立ち合いの変化で稀勢の里をあわてさせて土俵際で逆転勝ち。
 千秋楽、鶴竜の楽勝かと思われた結びの一番、照ノ富士は立ち合いから一気に寄って鶴竜を下して3敗同士での優勝決定戦にもちこんだ。しかし、照ノ富士の抵抗もここまで。決定戦では鶴竜がうまみのある相撲で終始主導権を握り、踏ん張れない照ノ富士を投げで仕留めて優勝を決めた。
 鶴竜は一人横綱の重責を担う中、「恥も外聞もなく」(北の富士さんのことば)勝ちにこだわった。11日目の栃煌山戦、そして前述の稀勢の里戦に見せた立ち合いの変化は、横綱の相撲としては残念なものであった。それでも、優勝したい、しなければならないという気持ちの方が強かったのだろう。
 照ノ富士は怪我で終盤失速したのは残念だったが、力ずくの強引な相撲が裏目に出たといえる。今後は不利な体勢でどのように相撲を取るか、そこが解決しないと把瑠都のように横綱が期待されながら怪我に泣かされてしまうということにもなりかねない。
 稀勢の里は優勝のチャンスだったが、立ち合いに変化された鶴竜戦でももっと落ち着いて相撲を取れば勝機はあった。不十分な体勢でも強引に前に出る相撲が裏目に出た。
 琴奨菊は体調が万全ではない中、前に出る相撲で11勝。久々に大関らしい場所となった。しかし豪栄道は千秋楽に敗れて負け越し。大関昇進前の自分の体勢を作って夜相撲が姿を消した。
 殊勲賞と技能賞は嘉風。2横綱2大関を倒す活躍だけでなく、持ち味であるスピード感あふれる相撲で11勝をあげた。途中まで優勝争いに加わっていた勢が、千秋楽に勝ってという条件をクリアして敢闘賞。終盤に失速したのは残念だったが、途中まではうまさと速さがうまくかみあったいい相撲を見せてくれた。三役で勝ち越した栃ノ心も千秋楽の勝利という条件をクリアして敢闘賞に。十両優勝を続けて幕内に復帰した頃の下半身を使った相撲がよみがえった。
 遠藤は千秋楽にやっと勝ち越しという結果だったが、前さばきの良さが特に目立った。近い将来の技能賞獲得が期待される相撲を取れている。期待はずれは逸ノ城。明らかに稽古不足で、相手に速く動かれるとなすすべもなく敗れ、勝った相撲は体格を利した相撲ばかり。勝ち越しはしたが、「怪物」と呼ばれた時の怖さが完全になくなった。
 他に目についたのは豊ノ島。こちらも中盤までは優勝争いの一角に食らいついていたが、低い重心からの攻めが生きていた。
 栃煌山は10勝以上が期待されたが、勝った時と負けた時の差が激しく、8勝どまり。実力派だけに、先場所つけた自信をもっと土俵上で発揮してほしかった。
 白鵬の休場で優勝争いは混戦となり、見かけは面白い展開になったけれど、照ノ富士の怪我による失速や鶴竜の勝つことにこだわりすぎた変化など、内容的には相撲の面白さを堪能できる場所とはいえないで終わった感がある。白鵬が復帰してきたら、やはり独走を許すのではないかと思わされた場所であった。
 

(2015年9月27日記)


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