大相撲小言場所


初場所をふりかえって〜琴奨菊、悲願の初優勝〜

 まさか場所前に、琴奨菊の優勝を予想した人はほとんどいなかったのではないだろうか。まさに予想外の優勝だった。
 場所前、私は「展望」で本命なき優勝争いと書いた。そこで、琴奨菊についてはこう書いている。「琴奨菊は調子に乗ればそのまま突っ走れるのだが、先場所は勝ち越してから途中休場。地位を守るのが精いっぱいか」。つまり、調子に乗ったのである。中日に稀勢の里を一気の攻めで下して8連勝したあたりから、攻めが安定してきた。10日目に鶴竜を下し、11日目に白鵬を電車道で寄り切った時には、私はブログで「相撲の神様が降りてきた」と書いた。平幕力士が突如ふだんの力以上の相撲を取って優勝してしまうことがあるが、今場所の琴奨菊はまさにそういう感じだった。日馬富士を突き落としに下して対横綱3連勝。13日目に豊ノ島に不覚をとったが、14日目の栃煌山戦ではまたもとの相撲に戻っていた。千秋楽は不振の豪栄道。油断せず自分の相撲を取り切って突き落とす。文句なしの優勝だった。
 平成十八年初場所の栃東以来、絶えてなかった日本出身力士の優勝である(日本国籍力士の優勝は平成二十四年夏場所の旭天鵬がいるが、出身はモンゴル)。これに刺激を受けて、稀勢の里が奮起してくれたらよいのだが。
 白鵬はスタミナ切れ。精神的なスタミナ切れではないかと思われる。優勝が決まったあとの日馬富士との一番など、無気力相撲と批判されても仕方ないくらいの力の抜けようだった。琴奨菊に寄り切られた時点で、気力が折れたのではないか。もっとも、今場所も栃煌山には立ち合いに顔面に手をのばして目つぶしをしすぐに変化して勝つなど、先場所の「猫だまし」と同様の小細工をしている。もう、相手の力を受けて立つ横綱相撲が取れなくなっているのではないか。14日目の稀勢の里戦では立ち合いに中途半端に手を出し、中に入られて一気に寄り切られている。これで三場所連続して優勝を逃した。スタミナ不足を解消できるほど、稽古量を取り戻せるのか。とはいえ、それでも12勝しているのだから、力が完全に衰えたとは言えないだろうが。
 日馬富士は2日目に松鳳山に不覚をとったが、琴奨菊に敗れるまでは先場所以上にスピードのあるいい相撲を取っていた。14日目の鶴竜戦で立ち合いに失敗して敗れなければ、千秋楽まで優勝争いに加わっていただろう。気力体力ともに、白鵬を上回っていた。それだけに鶴竜は序盤の取りこぼしで早々と優勝争いから脱落。持ち味の技能を生かしきれない相撲が続いた。
 大関陣は、照ノ富士が鎖骨骨折で6日目から休場。来場所はカド番となるが、大関陥落を怖がるのではなく怪我を完全に治してから出直すくらいでないと、把瑠都の二の舞になりかねない。豪栄道は完全に自分の相撲を見失っている。来場所は3度目のカド番だが、大関陥落を恐れて気持ちと体がいっしょにならない相撲を取り続けるようだと来場所も負けすのではないか。意外だったのは稀勢の里。勝った時の相撲は文句なし。負けた相撲はとても同じ力士と思えないくらいあっけない。白鵬、鶴竜と2横綱を下しながら9勝止まりとは。
 優勝争いに最後までくらいついたのが平幕の豊ノ島。5日目の隠岐の海戦で先に落ちたのに行司軍配は豊ノ島に。物言いもつかず、負けが勝ちに転じた。ツキもあったが、中盤からは持ち味の低く入って大きく取る相撲で勝ち星をのばし、13日目には全勝の琴奨菊をとったりで破るなどして場所を盛り上げた。殊勲賞は文句なし。技能賞のW受賞でもよかったのでは。敢闘賞は新入幕の正代。中盤に3連敗した時は幕内の壁に当たったかと思われたが、そこから開き直って積極的な攻めに転じて10勝。幕下から幕内に一気に駆け上がり、三賞受賞とは驚くべき進歩である。
 三賞は取れなかったが、今場所は新関脇で嘉風が勝ち越し。やはり動きがよく、先場所までの好調を維持した。隠岐の海と高安は序盤から中盤までは好調だったが、終盤に崩れたのが印象を悪くしたのか三賞はなし。隠岐の海は不運な敗戦もあったのだから、なにか賞があってもよかったのでは。
 期待されていた遠藤は怪我の悪化で途中休場。逸ノ城は稽古不足が露呈して大敗。相撲人気を盛り上げてくれた「怪物」たちの失速は残念。
 今場所はインフルエンザで休場した力士が目立った。安美錦、御嶽海はインフルエンザがなかったらもっと星をあげられただろう。
 とにかく今場所は琴奨菊に尽きる。優勝インタビューでは「嬉しい」を連発。その喜びを隠さない姿にも好感を持てた。

 

(2016年1月24日記)


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