大相撲小言場所


平成二十八年夏場所展望〜稀勢の里、横綱昇進のチャンス〜

 先場所の白鵬は、強いというよりもなりふり構わず勝ちに行くという面が強かった。優勝争いのライバルだった稀勢の里や豪栄道に対しては、顔面を張った上に大砂嵐ばりの破壊的なかちあげで相手の戦意を喪失させるという、これまでの白鵬には見られない激しい相撲を取り、隠岐の海や嘉風には不必要なダメ押しをして井筒審判長の負傷休場まで引き起こし、優勝決定戦のかかった日馬富士戦では立ち合いの変化で勝って優勝を決めた。
 優勝インタビューで野次られて涙したが、大阪のファンのシビアさを肌で感じたことだろう。これを受けて夏場所ではどのような相撲を取るのか。優勝争いの行方以上に、白鵬の相撲内容に注目したい。
 13勝で準優勝に当たる成績を残した稀勢の里は、今場所の成績次第では横綱昇進のチャンスを迎えている。審判部は14勝での優勝、3横綱全員からの白星などと条件をつけているが、照ノ富士の大関昇進時を思い出してみると、事前に出していた条件を満たしていなくても機運が高まれば条件をつけたことなど忘れて推挙するだろう。ただ、必要条件としての優勝は果たさなければならないだろうが。
 少なくともここまでの相撲内容からいえば、「強さ」という面では稀勢の里は日馬富士や鶴竜を凌駕しているといっていい。ただ優勝していないというその点だけで大関の位にとどまっているというだけなのだ。実力では横綱クラスだったが大関のまま現役生活を全うした魁皇に通じるものがある。ただし魁皇は大関で5回の優勝を成し遂げているのだが。それでも連続優勝でなかったということで横綱に推挙されることはなかった。稀勢の里が横綱に昇進できるかどうかは優勝するかどうか、そこだけにかかっているといっても言い過ぎではないだろう。
 巡業でも、場所前の稽古でも、稀勢の里は非常に充実した仕上がりを見せたという。その成果が本場所の土俵に結実するかどうかは、本人の精神面次第だろう。
 新十両の曲者宇良と正攻法の佐藤の相撲も楽しみだ。特にベテラン力士たちの老獪な相撲にどこまでついていけるか。
 先場所力尽きた琴奨菊の逆襲はどうか。カド番を脱した上に優勝争いに最後までからんだ豪栄道は、今度こそ自分の相撲を取り切ることに徹底できるのか。再入幕の遠藤はまだ故障個所が万全ではないようだがこれを奇貨として前に出る圧力をもっとつけてほしいものだ。
 

(2016年5月7日記)


目次に戻る

ホームページに戻る