大相撲小言場所


名古屋場所をふりかえって〜稀勢の里横綱逃し、日馬富士優勝〜

 稀勢の里が優勝を逃したのは、横綱日馬富士との一戦に敗れたためだけではなく、先場所までほとんどなかった下位力士への取りこぼしがあったからだろう。特に2敗目となった10日目の松鳳山戦は、立ち合いの変化についていけず自滅している。もう負けられないという気持ちが体の動きから柔軟性を奪っていた。土俵下の控えで微笑んでみせるなど、緊張をほぐすためにいろいろな方法をとった稀勢の里だったが、こればかりは性格を変えろというものなので、どうしようもなかったのかもしれない。私は、場所前に「勝つためにはなんでもやらねばならない」と書いたけれど、勝負師に徹しきれないのが稀勢の里の弱みでもあり、また力士としての美点でもあると思うのである。
 勝負師といえば日馬富士。ここ一番の集中力は白鵬以上だろう。13日目、2敗同士で迎えた稀勢の里戦、がちがちになった稀勢の里に対し、日馬富士は立ち合いから素早く前褌をひき、一気に寄り立てていった。千秋楽の白鵬戦も、白鵬が一瞬力を抜いた瞬間を逃さず寄り立てていった。下位力士への取りこぼしという悪癖は治らなかったが、後半戦、優勝争いに残っているとなると、集中力を切らすことはなかった。13勝2敗、8度目の優勝を飾った。
 白鵬は、ここ数場所顕著になっている立ち合いの張り手からかちあげで相手の戦意を喪失させるという手が通用しなくなり、自滅していった。宝富士にはかちあげを意識的に胸で受けられ、逆に体勢を崩してしまった。勢に敗れた一番では、目をつむって怖がる勢の差しだした手をかいくぐろうとしてつんのめり、自分から土俵に落ちた。照ノ富士戦と稀勢の里戦では有利に立とうとして手つき不十分で伊之助に待ったをかけられ、いらつく中で自分の相撲を見失って敗れた。大横綱には失礼ながら、来場所は63連勝した頃のような理想的な相撲の境地を目指してもらいたいものだ。
 大関陣は総崩れ。琴奨菊は初日から連敗し途中休場。照ノ富士はなんとか千秋楽に勝ち越してカド番を脱したが、豪栄道は千秋楽に優勝争いに踏みとどまる稀勢の里に完敗して負け越した。照ノ富士は怪我の完治を優先的に考えほしい。豪栄道は大関を維持することはもう難しくなっているのではないか。
 その分、場所を盛り上げたのは三賞の受賞力士たち。殊勲賞の嘉風は数場所前の思い切りのいい相撲を取り戻し、実力を見せつけた。優勝した日馬富士に土をつけたのが評価されての殊勲賞である。白鵬を倒して調子に乗った宝富士は敢闘賞。上位に対して自分の相撲の形でとることができてきた。優勝決定戦の期待を残した貴ノ岩が敢闘賞。地味ながら、今場所は切れのいい動きができていた。やはり最後まで優勝争いにからんだ高安は技能賞。上位に対して互角に相撲が取れる自信をつけたと見る。
 三賞は逃したが、下位では錦木が力をつけている。幕内力士らしいスピードと重さ、そして技のキレを身につけてきている。
 残念だったのは遠藤。初日から9連敗した相撲は、故障が完治していないことをみせつけた。今でも幕内土俵入りでは歓声が上がる人気力士だけに、その相撲のうまさ、前さばきの良さを発揮して上位に進んでほしいものだ。
 十両では優勝した天風が、その巨体の生かし方を身につけてきた。来場所は新入幕の期待もかかる。愛すべきキャラクターの持ち主なので、幕内でも人気が出るだろう。優勝は逃したが、宇良が11勝。相撲のうまさに磨きがかかってきた。入幕してどれだけ通用するのか、楽しみである。
 今場所は優勝争いは盛り上がったが、相撲内容はあまりよくなく、それが残念。ただ、平幕の個性派たちの相撲が光った場所だった。
 

(2016年7月24日記)


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