場所前の話題は豪栄道の連続優勝だった。5日目までは、先場所の勢いのままに出足をきかせた相撲をとっていたが、6日目に土俵際で玉鷲に土俵際で突き落とされると、翌日からはおっかなびっくりの相撲にかわった。中日の隠岐の海戦は、土俵際で突き落とし、俵にかかった足も残っていたものの「死に体」と判定されて行司差し違えで敗れると、あとの相撲は勝ちたいという焦りが見えるようになり、最終的には9勝どまり。力士に取って、「心技体」のバランスがいかに大切かを思い知らされた。
12勝すれば大関と言われていた高安は、5日目に玉鷲の小手投げで逆転負けを喫したあとは、やはり勝負を急ぐようになり、そこをつかれて中日から5連敗。あっけなく土俵を割る姿には大関候補と呼ばれた先場所までの自信に満ちた取り口は見られなかった。
白鵬は序盤は立ち合いから相手の突進をかわす相撲で白星を重ねたが、6日目、遠藤に中に入られるともろくも土俵を割り、10日目の稀勢の里戦も一度は寄りきるかという相撲をとったものの一度残られ、がっちりと組まれると残す腰なく寄り切られ、11勝どまりに終わった。優勝争いをする日馬富士を土俵際で逆転して下し、意地は見せたが、怪我が完治していないのと全休明けで相撲勘が戻っていないのがはっきりと出た場所だった。
優勝争いは初日から10連勝した鶴竜がリード。組んでよし、離れてよしの安定した相撲で白星を積み重ねた。11日目に稀勢の里の小手投げから突き落とす相撲で土俵に這ったが、12日目に今場所不調の琴奨菊と当たったのが幸いし、自分の相撲を取り戻し、最後まで安定した相撲を取りきった。14日目、2敗で追う日馬富士が白鵬に敗れて3度目の優勝が決まった。それでも千秋楽、力を抜くことなく日馬富士を沸騰したのは立派だった。
不思議なのは稀勢の里だ。3日目には遠藤に一方的に敗れ、7日目にも正代に完敗。ところが3横綱、2大関(琴奨菊との取組はなし)には圧勝するも、優勝の可能性が出てきたところで13日目の栃ノ心戦ではいいところなく寄り切られ、あっさりと後退。初の年間最多勝に輝きながら、一度も優勝がないという珍記録を達成してしまった。柏鵬時代の大関豊山(勝)もこんな感じだったのだろうか。いや、横綱よりも強いと思わせるところがあるだけに、豊山以上の「最強大関」かもしれない。
遠藤が序盤に1横綱3大関を撃破して土俵を盛り上げたが、勝ったり負けたりを繰り返し勝ち越せば殊勲賞という千秋楽には玉鷲に一方的に押し出されて負け越し、大魚を逃した。やはり中盤まで盛り上げたのは新入幕の石浦。初日は千代大龍に軽量をつかれて敗れたが、2日目からスピード感のある相撲で10連勝。一時は1敗で優勝争いのトップに並んでいた。しかし、終盤からスタミナ切れしたか足がついていないようになり、4連敗。それでも敢闘賞は当然だろう。
優勝争いにからんだ正代は11勝をあげて敢闘賞。勢いに任せた相撲ではなく、自分の形になって白星を積み重ねたことに意味がある。初日に日馬富士を下して調子に乗った玉鷲は、大関狙いの高安や横綱狙いの豪栄道らに勝つなどして土俵を盛り上げた。今場所は引き技に頼ることがなく、前に出る相撲が認められ、技能賞。初めての三賞とは意外であった。
三賞以外では出足の良い相撲を見せた勢、相手をつかまえて持っていく怪力相撲の荒鷲が土俵を盛り上げた。
カド番大関の照ノ富士は中盤前に出る相撲がよく、12日目に白鵬を下して勝ち越した。しかし、それでほっとしたのか終盤は連敗して8勝どまり。膝の故障にはまだまだ泣かされそうだ。琴奨菊は今場所は全くいいところがなく5勝どまり。大関を維持することも難しくなってきたのでは。
最終的には鶴竜の独走のような形になったけれども、13日目までは混戦模様で非常に楽しく見られた場所だった。
(2016年11月27日記)