大相撲小言場所


平成二十九年春場所場所展望〜新横綱、稀勢の里〜

 稀勢の里が、初場所後に横綱に昇進。「早熟で晩成」と本人が語っているが、まさにその通りだ。幕下時代から未来の横綱として期待されていた。彼は10代の頃から「期待」というプレッシャーと戦ってきたのだ。白鵬の連勝記録を止め、1年間毎場所「綱取り」と言われ続け、ここというところでチャンスを逃した。
 強さという点では3横綱の誰にもひけを取らないものを持ちながら、「優勝」というピースが欠けていたため横綱になれなかった。それが先場所埋まった。千秋楽、闘志むき出しで寄って来た白鵬も下し、横綱として恥ずかしくない力士であるということを証明した。かくして稀勢の里は横綱に昇進した。
 新横綱での優勝力士はほとんどいない。自分のペースで場所前を過ごせないからで、今場所の稀勢の里にあまり多くは期待できない。期待してはいけない。期待を裏切る男、それが稀勢の里だ。先場所は「綱とり場所」ではなかった。期待されていなかったから優勝した。もし、今場所稀勢の里が「新横綱優勝」を果たしたとしたら、その時こそ稀勢の里が本当に大力士への道を歩み始めたということになるだろう。
 優勝の本命は白鵬だろう。ここ数場所、足の怪我もあって本来のどっしりとした相撲が取れていない。もし今場所の序盤も先場所のように相手をあしらうような相撲しか取れないとしたら(それでも勝ってしまうのがすごいところではあるのだが)、白鵬の力士生命が限界に近付いているということになると思うのだが。
 先場所休場した日馬富士と鶴竜の両横綱には、勝ちを焦ることなく自分の相撲を取り切ってほしい。4人の横綱がそれぞれの持ち味を出すことで、土俵が盛り上がると思うからだ。
 大関陣では、豪栄道も休場明け。先場所勝ち越しているのだから、大事をとって怪我を完治させてほしいと思うが、御当所だけに休場できないのだろうなあ。カド番の照ノ富士は、守りに回ると踏ん張れない。攻めの相撲を心掛けていけば、カド番脱出は可能だろうし、そこまでの開き直りがほしい。
 大関を陥落した琴奨菊は10勝すれば大関に返り咲ける。先場所の稀勢の里戦のように、ただひたすらがぶるという相撲をとっていけば、それも可能だろうが、勝つことにこだわり過ぎるとかえって体が動かなくなるだろう。私は10勝は難しいと見ている。優勝した昨年の初場所がピークで、そこから力が落ちているから大関を維持できなくなったと見るからだ。
 それよりも高安が大関昇進に向けて10勝以上できるかに注目したい。
 新入幕の宇良の相撲も見ものだ。果たして幕内であの反りが通用するのか。御当所だけに応援の声も大きかろう。気負わず、宇良らしい相撲を取ってほしいものだ。
 稀勢の里の横綱昇進などもあり、前売り券は即日完売。私は平日の早朝に自由席を求めて並ぶつもりだが、それでも手に入るかどうか。転売目的で購入した奴から高値で買うような真似だけはしたくないしね。
 野球賭博や八百長問題で閑古鳥が鳴いていた時も必ず足を運んでいた身としては、相撲人気につけこんであぶく銭を稼ごうという輩にいい目だけは見せたくないのである。

(2017年3月11日記)


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