大相撲小言場所


平成三十年初場所展望〜土俵外の雑音をかき消す場所に〜

 日馬富士の引退。前年九州場所前の鳥取での巡業で、城北高校OB会の酒席になぜか白鵬と日馬富士が同席し、貴ノ岩に対し白鵬が説教をはじめ、二次会の席で貴ノ岩がスマートフォンを出したのを見て日馬富士が激昂してカラオケのリモコンなどで貴ノ岩の頭部を殴打。貴乃花親方は鳥取県警に被害届を出したが、相撲協会にはなぜか報告をしなかった。
 ここで報告をしていれば、展開はまた違ったものになっただろう。
 貴ノ岩は全休。日馬富士は初日から連敗し、途中休場。場所中に事件が発覚し、暴力行為を行った責任を取って日馬富士は引退した。日本国籍取得目前での引退で、協会に残ることは不可能になった。相撲協会の危機管理委員会は同席していた白鵬らから事情を聴取したが、貴乃花親方はなかなか応じなかった。この結果、巡業部長としての任を怠ったという理由で貴乃花親方は理事から降格という処分を受けた。伊勢ヶ浜親方は自ら理事を辞任。同席の白鵬と鶴竜は日馬富士の暴行をなかなか止めなかったということでそれぞれ給与をカットされ、照ノ富士と石浦は注意を受けた。
 この間、テレビのワイドショーは連日この話題をとりあげた。もと朝青龍、もと旭鷲山、貴ノ岩の実兄らモンゴル人が、貴乃花親方の実母や芸能人たちが憶測を交えてコメントしたりツィートしたりした。大きな事件には違いないが、「協会存亡の危機」「貴乃花、第二協会を構想」などという真偽定かではないおおげさな見出しが週刊誌の誌面をにぎわせた。
 理事会、評議会を経て貴乃花親方への処分が決まり、もと日馬富士への刑事罰も確定した。やっと場所前になって土俵上の話題が出るようになったところに、今度は行事によるセクハラ事件が起きた。
 立行司式守伊之助親方が、泥酔して十代の行司にキスをしたり乳首を触ったりしたという。土俵祭りは三役格の式守勘太夫が行い、伊之助親方はとりあえず謹慎を申しつけられた。
 ここまで、事実関係をとして認められたことを簡単に振り返ってみた。
 貴ノ岩は今場所も全休。来場所は本来ならば幕下落ちになるところだが十両に留め置かれる救済処置がとられる。今後は貴ノ岩ともと日馬富士の間で民事裁判が行われることになろう。とても示談ではすまされそうにない。
 土俵外の騒動は騒動として、きっちりと解決してほしいが、メディアは場所後の理事選挙についていろいろと取りざたをしており、雑音はまだまだ聞こえてくるだろう。
 本来なら結果次第では引退という危機を迎えている、休場明けの稀勢の里、鶴竜の両横綱に注目が集まるところだが、この雑音によって騒がれることがないのは皮肉にも幸運なのかもしれない。背水の陣となった両横綱の相撲からは目が離せない。
 横綱審議委員会から、立ち合いの張り手とかちあげを注意された白鵬は、なりふり構わず勝ちにいくことができなくなった。これが優勝争いにどういう影響を及ぼすのか。
 カド番は脱したが休場明けとなる高安はどうだろうか。巡業や場所前の稽古では順調に仕上げているという報道から、万全の態勢で本場所に臨んでくるだろう。ここは優勝争いの先頭に立つというくらいの活躍を期待したい。
 御嶽海、貴景勝、北勝富士、阿武咲ら成長著しい若手力士たちが、どれだけ力をのばしているかも楽しみである。期待の若手では阿炎が新入幕を果たした。長い手足から繰り出される突き押しがどれだけ幕内で通用するか。怪我で十両から序ノ口まで陥落し、そこから這い上がってきた苦労人の竜電も新入幕。かつつて大器と期待された実力を見せてほしい。
 幕尻まで落ちたもと大関の照ノ富士がどこまで復活するか。こちらも注目したいところだ。
 土俵外のことばかり大きくとりあげられるが、それ以上の土俵上の白熱した取組を見せて、雑音を吹き消す場所にしてもらいたい。一ファンとして、心からの願いである。

(2018年1月13日記)


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