横綱白鵬は立ち合いのかちあげと張り差しを封じられ、初日から2連勝するも苦戦。3日目には北勝富士の押しに敗れると、翌日は嘉風に完敗。両足の親指の負傷で休場を余儀なくされた。横綱稀勢の里も初日から腰高で、5日目までに4敗を喫し休場。再起をかけた横綱鶴竜が一人横綱の重責を担うことになった。
鶴竜は悪癖の引き技を封じ、初日から10連勝。重量を増した逸ノ城や、初日から6連勝と好調の栃ノ心などにも真っ向から攻め立て、独走するかに見えた。しかし11日目、玉鷲戦で引いたところをつけいられてあっけなく敗れると、続く遠藤戦もまともに引いて寄り切られ、御嶽海、高安にも引いて連敗。あっという間に優勝戦線から脱落してしまった。
鶴竜も気の毒な役回りを担わされたものだ。進退を賭けた場所で一人横綱。4場所連続の休場、直近の2場所はいずれも全休。15日間、安定して取り切るスタミナはなかった。千秋楽に勝って11勝とし、引退の危機は回避できたし、白鵬が元気だったら、休場明けでよくやったといわれる成績だろう。もし優勝していたのが大関陣であれば、失速したとしてもそれほど責められることもなかっただろう。ところが、優勝は平幕力士。横綱としての責任を一身に担うことになってしまった。私は鶴竜はよく健闘したと思っている。
優勝は栃ノ心。立ち合いから突っ張りもよく、右上手をつかむと出足よく攻め立て、引かれても下半身が安定していたためそこにつけいって寄り切る力があった。横綱鶴竜に敗れたのみの14勝1敗。まさに相撲の神様が降りてきてくれたといえる場所だった。三役から怪我で幕下下位まで陥落し、そこからの復活劇は、特に十両で逸ノ城が怪物ぶりを発揮していた時にがっぷり四つから寄り切る相撲などを見せるなど、見事なものだった。幕内に戻ってからは一進一退を繰り返していたが、今場所前は下半身の負傷の具合も良くなり、充実した稽古ができたという。まさに「人間、辛抱だ」を地でいった初優勝だった。栃ノ心は殊勲賞と技能賞も合わせて獲得。早くジョージアに帰国して産まれたばかりの娘さんに優勝の報告をしたいだろう。
敢闘賞は新入幕の竜電と阿炎。ともに10勝をあげた。竜電は前まわしを取りひきつける技能が冴えた。阿炎は長い手足を生かした突っ張りと叩きがよく決まり、千秋楽に勝って敢闘賞を決めた。竜電は新十両の場所で股関節を負傷し、序ノ口まで陥落してからの再起。阿炎も十両から陥落したあと一時は腐ってしまい低迷したが、そこから這い上がった。
今場所はそういう力士が活躍するように相撲の神様が味なところを見せてくれたように思う。
大関高安は序盤に3敗して優勝争いから脱落しかけたが、中日から8連勝し、大関に昇進して最高の12勝。突き押しの馬力が戻った。大関豪栄道は下半身の粘りがなく一進一退。なんとか勝ち越したが、内容はあまりよくない場所になった。
期待された若手たちでは、貴景勝、北勝富士は上位の壁に阻まれて負け越し阿武咲は途中休場。いずれも取り口を研究され、前進する圧力を受け止められた後、すかされて敗れる相撲が目立った。今場所の相撲を糧にして来場所からの出直しが期待される。
三賞からは漏れたが、逸ノ城が怪物復活の予兆を見せた。体重を戻し、その圧力で相手を圧倒する相撲がみられ、10勝。遠藤も持ち前の前さばきの良さを生かした相撲で9勝。下位の若手では、大栄翔、輝、豊山、朝乃山、石浦がそれぞれの持ち味を出して9勝。来場所につながる相撲を見せてくれた。
照ノ富士は途中休場から再出場したものの全く力を出せず一番も勝てずに十両陥落が決まった。このままで終わる力士ではないはず。糖尿病、インフルエンザなど悪条件も重なった。来場所までに体調をしっかり整えてまたあのスケールの大きな相撲を見せてほしい。
大砂嵐の無免許運転、春日野部屋の元力士による裁判など、場所中に「不祥事」が次々と報道されており、相撲人気が下火のころならそれほど大きく報じられなかったことも、今は集中砲火を浴びる結果となっている。ここは協会員すべてが自重してつけ入られるすきを与えないことだ。
元幕内の北大樹が引退。年寄小野川を襲名した。若い頃は立ち合いの待ったの多い力士という印象が強かったが、その悪癖もキャリアを積むごとになくなり、四つ相撲の型を持った中堅力士として長く活躍した。今後は山響部屋付きの親方として後進の育成にあたる。長い間、お疲れ様でした。
(2018年1月28日記)