大相撲小言場所


平成三十年九州場所展望〜貴乃花親方、去る〜

 貴乃花親方が角界から去った。内情について知っているわけではないので、論評はしないけれど、誰かが中心となって貴乃花親方を追い詰めたという印象は免れない。貴乃花親方はあくまで暴力被害者の貴ノ岩の師匠であり、その行動の中心には貴ノ岩を守りたいという思いがあったということだけは確かだろう。少なくとも暴行事件をきっかけに協会をゆすぶって自分の勢力を拡大してやろうという動きはしていない。それならば阿武松親方たちにも働きかけて一門全体で動いていたはずだ。
 しかし、貴乃花親方は逆に他の親方に影響を及ぼさないように一門からの離脱をした。政治的に動くには孤独な戦いをした方が損だというのに。これを協調性がないとか自分勝手だとかいう向きもあるようだが、私はそうは思わない。政治的に動いていると思われたくない、ただ弟子のためにと突っ走ったというように見える。
 そこにつけこんだ親方がいることだけは確かだろう。貴乃花親方自身が「有形無形の圧力があった」と言っているのだから。政治的に動くのであれば、その親方の名前を明言してもいいはずだが、それもしていない。八角理事長に直接言うべきだという声も見かけたが、平年寄に降格された親方が理事長に直訴できる風通しのよい組織であれば、このような結果にはなっていなかっただろう。
 ただ、協会としては「客寄せパンダ」としての貴乃花親方はまだまだ必要だったはずで、今回のように協会から水から去るとは想定していなかっただろうことは芝田山親方の対応を見てもはっきりしている。日馬富士関や先代式守伊之助親方の引退、辞職願はすんなりと受け取りさっさとお払い箱にしたのに対し、書類不備をたてに何度も差し戻しをしている。なにかしらのために時間稼ぎをしていたのかもしれないが、協会全体が大慌てであったという印象が強い。貴乃花親方の性格からこういう行動に出ることも予想していてもおかしくなかったと思うのに。平年寄降格だけでよかったのだ。どこかの一門に無理やり入れてコントロールしようとしたのはやりすぎだったということだろう。
 ともかく、またひとりもと横綱が協会を去った。現役時代にトップをとり角界を引っ張った力士がこうやって次々と去っていく、あるいは残れない状況にあることに協会は危機感を持つべ田と思うのだが。白鵬や鶴竜が日本国籍をとらないまま引退したら……。日馬富士は協会に残るべく国籍変更の準備をしていたという。それをあっさりと手放したその報いは10年後、20年後に響いてくると思う。

 さて、九州場所の展望に移りましょう。
 白鵬と鶴竜の休場で、稀勢の里の一人横綱となった。場所前の稽古も順調で、優勝をはっきりと口にしているだけに、優勝争いの中心になってほしい。対抗馬は栃ノ心と豪栄道か。ともに優勝経験もあるので、体調さえ万全であれば、最後まで優勝争いにからんでくるだろう。高安は中盤で一度息切れするところがあるので、勢いをつけて乗り切っていければ初優勝の目もあるか。大関昇進を逃した御嶽海がどれだけ気持ちを切り替えて場所に臨めるかも注目したいところだ。逸ノ城、貴景勝、魁聖らの三役力士にも奮起を期待したい。2場所連続三賞なしということにならないようにしてほしいのだ。
 2年の苦闘を終えて再び関取の座にもどった豊ノ島を応援したい。また幕内の土俵で活躍する姿を見たい。千賀ノ浦部屋に移籍したもと貴乃花部屋の力士たちには、心ならずも協会を退いた親方の意をくんで、ぜひ活躍してもらいたい。
 両横綱の休場も、場所前のごたごたも吹き飛ぶ熱戦を期待している。
 特にがんばれ、貴ノ岩!

(2018年11月10日記)


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