大相撲小言場所


春場所をふりかえって〜白鵬、全勝で平成締め、貴景勝は大関へ〜

 今場所は横綱大関が誰ひとり欠けることなく出場した。大関昇進を狙う貴景勝にとっては大きな壁が次々と立ちはだかる試練の場所で、こで10勝したのだから、星勘定以上に大きな意味のある勝ち星であり、場所後の大関昇進はまず間違いない。とはいえ、プレッシャーはことのほか大きかったとみえ、序盤の御嶽海、玉鷲の敗戦は下から押し上げるいつもの相撲が見られず、白鵬にはつかまって投げられ、豪栄道には出足を止められて苦杯をなめた。逸ノ城には上からつぶされるようにはたきこまれ、千秋楽の栃ノ心戦で一方的に押し出したからよかったようなものの、苦戦しているようでは大関の声がかかるところまで行かなかったかもしれない。来場所大関に昇進したとしても、まだまだ改善の余地はあるだろう。それだけに四つ相撲もとれるようになっていかなければなるまい。とはいえ、大きな壁を乗り越えての昇進は立派なものだ。三賞は技能賞を受賞。
 優勝したのは白鵬。栃煌山には背中にまわられ、貴景勝にも苦戦した。千秋楽の鶴竜戦では右腕を痛めながらなんとかすくい投げで勝ったが、長年の貯金を生かし、あとは平成最後の場所を優勝で飾るのだという気持ちだけで勝ち続けたという感じだ。そこで勝ってしまうのが白鵬の凄いところなのだが、傷めた右腕はかなりの重症で、もし敗れて逸ノ城との決定戦になっていたら危ないところだった。果たして来場所以降はこれまでのようにいくのか。心配である。ただし、優勝インタビューで三本締めを呼び掛けるなど、相変わらずなにかやらずにはいられない人であるなあ。あれがなければもっとよかったのに。
 惜しかったのは1敗で支度部屋で待っていた逸ノ城。とにかく今場所は腰から下が座っていて、どんなに押されてもびくともしないという感じで安定感があり、それに対抗して押しにかかる力士をはたきこみであしらうというパターンで14勝。本来なら優勝してもおかしくない星取りになった。ただ、優勝した白鵬とは顔があっていない。審判部は大関の誰かと差し替えてでも逸ノ城を白鵬と当てるべきではなかったか。白鵬との対戦なしで決定戦を待つというのは逸ノ城としても本意ではなかっただろう。ただ、この相撲で来場所もこれだけ勝てるかどうか。殊勲賞は文句なしだ。
 鶴竜は全休明けで10勝だから、よくやった方だろう。ただ、千秋楽の白鵬戦は勝てる相撲を落とした感があり、ここで存在感を見せてほしかった。大関陣では豪栄道が最後の星のつぶし合いで脱落したものの出足の鋭い本来の相撲を取り切って12勝。特に貴景勝をはねかえしたのは大きかった。高安は悪い体勢になっても焦らずに相撲が取れるようになったのは成長だが、相撲全体に勢いが感じられず10勝どまり。特に終盤は相撲全体が淡白になってしまっていた。カド番の栃ノ心は怪我が完治せず押しこまれると踏ん張り切れずに負けてしまうことが多く、千秋楽には貴景勝に一方的に押し出されて大関陥落。5場所での陥落は大受以来の最短記録となってしまった。
 敢闘賞は碧山。前半戦は1敗で飛ばし、途中まで優勝争いに名前を残していただけに、当然の受賞だと思うが、千秋楽の友風戦に勝てばという条件は不要ではなかったか。その友風は新入幕で9勝。10勝していれば敢闘賞ということだった。しかし、それほどよかったイメージはなく、それならばやはり条件付きで千秋楽に負けて敢闘賞を逃した琴奨菊に無条件で出した方がよかったと思う。前半戦は全盛時を思い出させる寄りで土俵を沸かせた。年齢的にもよくやっていると思うし、勝ちち星の数よりも相撲内容で決めてほしかった。
 三賞にとどかなかったが、明生は場所ごとに力がついていて、そろそろ三賞の声が上がってもおかしくない。竜電も安定した相撲を見せて、来場所以降が楽しみ。負け越したが、怪我でまともに場所前に稽古のできていない御嶽海の7勝は驚き。稽古が足りていたらどれだけ強くなるのだろうか。ベテラン嘉風は序盤苦しかったが中盤は持ち味の出足で連勝して10勝。
 残念だったのは序盤の上位戦で連敗した錦木。あと一歩という相撲もあり、来場所は出直し。ホープと言われていた正代、朝乃山、豊山はまったくいいところなし。なぜここまで力が落ちていくのか。稽古の質と量に問題があるのではと思わざるを得ない。
 平成最後の場所で、一時代を作った白鵬が42回目の優勝を全勝で飾り、序盤は横綱大関陣もよくついていった。貴景勝の大関挑戦というところでも盛り上がり、非常に面白い場所になった。これを新しい年号にかわる来場所につなげていってほしいものだ。
 

(2019年3月24日記)


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