いきなり初日から鶴竜が休場。豪栄道も2日目から休場。カド番の高安は自分の相撲が取れず黒星を重ねて中日から休場。大関復帰を目指していた栃ノ心は2連敗のあと2連勝して期待を持たせたが5日目から休場。先場所の優勝決定戦で大胸筋を傷めた貴景勝は彼らしい相撲がなかなかとれず、勝ち越しはしたけれど序盤の連敗などが響いて優勝争いから早々と脱落。御嶽海は3日目の明生との一番で右目のまぶたが切れてしまうとなにか戦意喪失したような感じでずるずると敗れて負け越し。
これで盛り上がれというのが無理。白鵬は休場と不調の上位陣の分をひとりでカバーするようにとにかく勝ちにいった。2日目の大栄翔戦で押し出されて不覚をとったけれど、3日目からは立ち合いの張り手をフルに使う。特に朝乃山、遠藤あたりの伸び盛りの力士に対しては容赦がなかった。遠藤には張り手だけでなくかちあげも使い、なりふり構わぬ相撲。4日目の隠岐の海戦では土俵際の投げの打ち合いで辛うじて勝つなど、自分でも力の衰えを自覚していたのかもしれない。
そんな白鵬に追いつける力士はおらず、14日目には3敗で朝乃山が追いすがっていたが、御嶽海を外掛けであっさりと倒し優勝を決め、千秋楽は貴景勝をつかまえるとじっくりと攻めて圧勝。43回目の優勝である。
白鵬を追いかけたのは中盤までは輝、正代。終盤は朝乃山という形になった。正代は先場所の不調とは打って変わった粘り強い相撲で11勝。千秋楽に朝乃山に勝つという条件をクリアして敢闘賞を受賞。朝乃山は右四つの形のよさが認められて技能賞。8勝どまりながら唯一白鵬に土をつけた大栄翔が殊勲賞。三賞以外では腰高の弱点を前に出る相撲でカバーした輝や、伸びのある突っ張りで今場所も勝ち見した阿炎が光った。炎鵬は辛うじて勝ち越したが、今場所も連日ファンを沸かせた。遠藤は序盤に負けが混んだため負け越したが、相撲のうまさはさらに磨きがかかっている。
十両では足を痛めて下位にまで落ちた勢が今場所も決定戦で優勝は逃したもののよかった時の相撲を取り戻した。琴ノ若が積極的な相撲で力をつけたところを見せてくれたのにも注目したい。新十両の豊昇竜は負け越したもののおじの朝青龍ゆずりの足腰とばねで来場所以降に期待を持たせた。
幕下ではもと大関照ノ富士が全勝して来場所の十両復帰を確定させた。序二段から一気にここまで戻ってきたのはさすが。まだ上半身の力で強引にもっていく相撲が多いが、ひざの具合がよくなってきたら、三役まで戻る日も近いだろう。
とにかく低調な場所だった。高安は大関を陥落し、来場所は一場所での大関復帰を目指す。栃ノ心はおそらく平幕落ちか。貴乃花、朝青龍などが一気に駆け上がってきたような勢いを感じさせる力士が出てきてくれないと、いつまでも白鵬が「壁」となって立ちはだかるという構図はなくなるまい。
ただ、これだけ休場者がいるということは、怪我が治り切っていないけれども番付が落ちていくのを恐れてむりやり出場する力士が多いということだと思われるので、押し相撲が多く熱戦も多い現状から、公傷制度を復活させなければならないのではないかと私は思う。そうでなければ、期待の若手たちが怪我でチャンスを逃すという図式はなくならないだろう。
(2019年11月24日記)