初日、鶴竜が遠藤に苦杯をなめ、二日目は白鵬がやはり遠藤に張り手をかいくぐられて中に入られて切り返しで背中から落ちるという波乱の出だし。鶴竜は北勝富士、妙義龍に連敗して五日目から休場。白鵬は三日目に妙義龍に引き落とされて四日目から休場。またも横綱不在の場所となった。カド番の豪栄道は序盤から連敗続きでついに負け越して大関陥落が決定。高安も苦戦が続き、九日目に宝富士に六敗目を喫して大関復帰はならず、ついに負け越し。上位陣では貴景勝だけが一敗で中日までトップに立っていたが、九日目に一敗同士の対戦で正代に敗れ、十四日目に朝乃山の捨て身の上手投げに屈して優勝戦線から脱落した。
優勝争いを続けたのは平幕の正代と徳勝龍。正代は豪栄道に屈した一敗のみ。徳勝龍は二日目に魁聖に敗れただけであとは連勝街道をまっしぐら。両者とも踏みこみよく前に出る相撲で白星を積み重ねる。徳勝龍は終盤は得意の土俵際の突き落としが冴え、追いすがる輝、豊山を下す。正代も貴景勝に圧力負けせず勝つと、勢いに乗ってトップの座を譲らず。十四日目に一敗同士で正代と徳勝龍が事実上の優勝決定戦。前に出る正代を受け止めた徳勝龍が突き落としで勝ち単独トップに立つ。千秋楽、正代は御嶽海に圧勝し、優勝決定戦に望みをつないだが、徳勝龍がなんと幕尻で千秋楽結びの一番に臨むという異例の取り組みで貴景勝を堂々と寄り切り優勝を決めた。
優勝決定の瞬間、徳勝龍は土俵の上で早くも涙。それはそうだろう。先場所まで十両暮らしが続き、やっと再入幕した場所で、これまで三賞にも三役にも金星にも縁のなかったのに幕尻で一気に優勝してしまったのだから。場所中には近大時代の恩師の訃報に発奮。まさに相撲の神様が降りて来たとしか言いようのない快進撃だった。
場所を盛り上げたのは平幕力士たち。最後まで優勝争いに加わったのは豊山と輝。ともに三賞は逃したものの、チャンスは十分にあったが、ともに徳勝龍や正代との直接対決で後退した。炎鵬は初めての上位挑戦で、豪栄道、朝乃山らの強豪に対して時には腕をたぐり、時には捻りと持ち味を十分に発揮。長身の栃ノ心には吊り出しに敗れたが、やはり長身の阿炎には土俵際の足取りでバレエのリフトよろしく相手を持ち上げるという離れ業を演じた。13日目には勝ち越して技能賞は確実と思われたが、千秋楽に勝つという条件がついてしまい、苦手の輝に屈して技能賞を逃した。不可解な条件としか言いようがない。技能賞の場合、白星の数よりも内容を見るべきだろう。三賞選考委員の見識を疑う。
殊勲賞は両横綱撃破の遠藤と優勝の徳勝龍。これは順当。敢闘賞は徳勝龍と正代、そして新入幕で十一勝の霧馬山。霧馬山の敢闘賞に異論はないけれど、新入幕で二桁勝てば自動的に敢闘賞というような選び方はいかがなものか。ならば連日国技館を沸かせた炎鵬にも三賞を出すべきだと思う。技能賞は押し相撲の北勝富士。こちらにも異論はないけれど、二けた勝利と鶴竜に勝った相撲があるというあたりが炎鵬よりも有利に働いたか。
北の富士さんが「白鵬がいないと、幕内のどの力士にも優勝のチャンスがある。均一化している」と指摘したが、まさにその通り。今場所は徳勝龍と正代に相撲の神様が降りていたとしか言いようがない。
他には終盤失速したが序盤を沸かせた照強、十勝して来場所は大関昇進がかかる朝乃山が印象に残る。
十両では大関から序二段にまで陥落していた照ノ富士がついに関取復帰で十三連勝して優勝。少々強引でも力の差を見せつけるような相撲で復活をアピールした。来場所は十両上位に上がり、再入幕をねらうことになる。やはり怪我で序二段に陥落していた宇良が序二段優勝を果たして、こちらも復活を印象づけた。
徳勝龍の優勝は、あきらめずにこつこつと努力していれば、地味な存在であってもいつかはスポットライトを浴びる日がくるという、素晴らしいものだったといえる。しかし、これまで十両でもがいていた力士にいきなり優勝をさせてしまう上位陣がふがいないともいえる。
ただ、両横綱がいなくてもこれまで脇役に甘んじていた力士たちの奮闘で土俵がこんなに盛り上がることもあるのだという意味では非常に面白い場所だった。十両の琴ノ若が来場所は新入幕を期待できそうだし、新旧交代の波は予想以上に早く来るのではないか。
追記 豪栄道が引退を表明。悩んだ末の決断だったようだが、思い切りのよい豪栄道らしい決断だろう。まずは怪我を治してほしい。そして指導者として後進の育成に期待したい。(1月27日記)
(2020年1月26日記)