とんでもない事態になった。コロナウィルスによる新型肺炎が流行し、サッカー、野球などは試合を延期したり無観客でオープン戦を実施したりということになっている。外気の当たる球場で行われる競技でもそのような措置をとっているのに、体育館内で、しかもぎっしりと観客を詰め込む大相撲の興行が通常通りに実施できるはずもない。
八角理事長は「苦衷の決断」で無観客で本場所を行うことと、発熱した協会員が出た場合は途中で場所を中止することを発表した。発熱に関してはのちに2日連続の場合と条件を変えたが、新型肺炎の感染を防ぐために場所前の土俵祭りは力士も観客も不在で行われるなど、感染防止に苦労している。
大歓声の中で気合を高めていく力士たちにとって、がらんとした体育館の中で本場所の相撲をとるということは、モチベーションを高めていくうえでもマイナス要素であるに違いない。
そういう意味では、精神力もまた試される場所になるだろう。
今場所は朝乃山が大関昇進を賭けることになる。豪栄道の引退で大関は貴景勝一人になり、番付上は鶴竜が西の「横綱大関」という表記になった。大関、関脇、小結は必ず東西に1名はいなければならない。横綱が゛強い大関に与えられる称号であった名残が「横綱大関」という番付表記に残っていることを思い出させてくれた。つまり、番付面では大関が必要になっていることは確かで、朝乃山については目安である昇進前33勝というハードルが下がることが予想される。つまり、かなり大きなチャンスなのだ。このチャンスを生かせるかどうかで今後の相撲人生も変わってくることだろう。
先場所休場した両横綱、特に連続休場の続く鶴竜にとっては進退のかかる場所にもなってくる。日本国籍を取得していない以上、鶴竜は今引退すると年寄として協会に残ることもできない。もし親方になるつもりがあるのならば、崖っぷちに立たされた今、必死で土俵にしがみつくしかない。どこまで鶴竜が踏ん張れるかにも注目したい。
大関経験者の栃ノ心、高安らにも大関並みの強さを見せてほしい。また、先場所活躍した徳勝龍や正代が続けて力を出せるかも楽しみの一つである。
技能相撲で土俵を沸かせる炎鵬と遠藤には、力任せの相撲が目立つ現状で、磨かれた技の切れ味を期待したい。
低迷の続く御嶽海が巻き返せるかも注目の的だろう。ここからまた大関を狙えるか、ずるずると下がってしまうか、分岐点の場所になるかもしれない。
新入幕の琴ノ若には祖父琴桜を思わせる馬力相撲を期待したい。現状ではまだ幕内の力はついていないように思えるが、豪栄道の引退で空いた枠にすべりこむことができての新入幕というのは、番付運を持っているということだろう。
先場所十両優勝の照ノ富士、序二段優勝の宇良がこのままもとの位置を目指すことができるのかも楽しみである。
徳勝龍の優勝のようなハプニングが起こる世代交代の時代、誰が優勝してもおかしくない。今場所は番付通りの優勝争いになるところを見せてもらいたい。
大関豪栄道が場所後に引退を表明して武隈親方になった。満身創痍の中、愚直に取っての負け越し。そして潔い引退に、「昭和の匂い」を感じた人も多い。ご当所の大阪で最後の姿を見せられないのは残念だが、それだけ力を使い果たしたということなのだろう。カド番から全勝優勝を果たした場所が印象に残る。今後は境川部屋の部屋付き親方として後進の指導にあたるが、豪栄道の愚直さを後輩に自ら伝えていってほしいものだ。長い間お疲れ様でした。
(2020年3月7日記)