大相撲小言場所


令和二年七月場所展望〜夏場所中止も両国で新大関朝乃山披露〜

 新型コロナウィルス禍で五月の夏場所は無念の中止。三段目の勝武士がコロナ感染のために死亡し、なんとか七月場所を両国国技館で無観客開催するという発表。その間に緊急事態宣言が解除され、プロ野球が人数制限付きで観客を入れ始めたのを見て、七月場所は2500人を上限に観客を入れての開催ということになった。升席は一名のみ、椅子席も間をあけての販売となったが、日本で一番患者の発生している東京で実施するよりも名古屋に移動した方がよかったのではないかというのは結果論か。
 せっかく大関に昇進しながらも、その晴れ姿をすぐにファンに披露できなかった朝乃山には気の毒だったが、七月も中止とささやかれていた中で、なんとか土俵に上がれることになり、本当によかった。ただ、夏場所中止となり、稽古は当面基礎運動のみ、申し合いやぶつかり稽古の禁止、出稽古の禁止という状況で、万全のコンディションで土俵に上がれないのはきついかもしれない。
 御嶽海など幕下以下の力士としか稽古できなかった部屋と、貴景勝のように隆の勝など格好の稽古相手のいた部屋とではかなり条件が違う。それが久々に行われる本場所の土俵にどういう影響を及ぼすかが見どころとなるだろう。また、貴景勝をはじめとする怪我で春場所不調だった力士にとってはよい治療期間になっただろうし、そこらあたりも注目したい。
 白鵬は石浦や炎鵬など小兵力士としか稽古ができず不安を漏らしている。それに対して鶴竜は霧馬山とよい稽古ができたようだ。今場所、その差が本土俵でどう出るのか。
 異例づくめになったのは大相撲だけではないけれど、新型コロナウィルスが集団生活という相撲部屋の根本的なあり方をどう変えていくのか。江戸時代から続き、何度もあった困難をその都度乗り越えてきた大相撲のことだから、今場所を契機にまた新たな形で危機を乗り越え、神事としての相撲の力でこのコロナウィルス禍を乗り越えてくれることを願わずにはおれない。

 もと幕内旭里の中川親方が弟子に対する暴力、暴言で部屋の解散を余儀なくされた。親方は解雇ではなく委員から平年寄への降格ですんだが、貴ノ富士の時と同様、二度目はないと言うべきだろう。年寄名跡の問題で春日山部屋から弟子を譲り受ける形で発足した中川部屋は、創設された時と同様突然消滅することになってしまった。気の毒なのは弟子たちで、それぞれが同じ一門ながら新しい部屋はばらばらに移籍することになった。おそらくまとめて受け入れられる部屋が一門になかったということなのだろうが、、この経緯は協会から説明がない。相撲ファンとしては、同じ釜の飯を食べた兄弟弟子を引き裂くようなことはしてほしくないと思うのだが。

 もと関脇豊ノ島が引退。小兵ながらどっしりした構えで、特に琴欧洲に強かった。腰の高い琴欧洲の中にもぐりこみ、すくい投げを打つとおもしろいように大関は投げられてしまったものだ。肩透かしの名人という印象も強いが、これも前に出る力があってこそ決まったものだ。それたけに、アキレス腱断裂という大怪我は致命傷だった。今後は井筒親方として後進の指導に当たるが、相撲中継の放送席であの明晰でユーモアのある語り口を披露してくれるかと思うと楽しみである。
 また、もと幕内蒼国来が、引退。八百長事件で無実を主張し、裁判で勝利して復帰してからの方が印象に残る相撲が多い。辛い時期を経て、思い切り相撲をとれる喜びがファンにも伝わったのだろう。軽量ながら正攻法。敏捷な動きが印象に残る。師匠の定年に応じて部屋を継承するための引退ではあったが、異国からの挑戦、相撲を取らせてもらえない間の辛抱など、弟子に伝えること多いはず。部屋は若隆元、若元春、若隆景の大波三兄弟を中心に上り調子。猫が一番の話題だった部屋を、相撲で知らしめるためにもその指導力に期待したい。
 二人とも、ご苦労様でした。

(2020年7月18日記)


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