大相撲小言場所


七月場所をふりかえって〜照ノ富士、驚異の復活優勝〜

 夏場所の開催を回避し、七月に名古屋入りせず両国国技館での開催となった七月場所。観客の人数も制限され、入場は午後一時から。皮肉にも、この場所中に東京では新型コロナウィルス感染者が急増した。そのような中で阿炎が場所前、場所中に「夜の街」に遊びに出かけていたことが発覚し、途中休場となった。危機感のない者はどの社会にもいるものであるが、これだけ厳重に警戒している相撲協会の配慮もなかなか全体には浸透しなかったということか。また田子ノ浦親方も同様の行為をしていたということで注意を受けている。なんともはや。田子ノ浦は名跡を荒磯と交換して部屋経営から降りてはどうか。
 出稽古禁止の影響は怪我人の続出にもつながった。稽古相手に恵まれた力士が活躍し、そうでない部屋の力士は苦戦したという印象が強い。横綱鶴竜は初日に遠藤に敗れると、2日目から休場。横綱白鵬は10日目まで土つかずだったが、11日目に大栄翔に体勢を崩されて押し出されると、12日目には御嶽海の土俵際の突き落としで土俵下に転落。そして13日目から休場。カド番の大関貴景勝は11日目に勝ち越してカド番を脱出すると、すぐに休場。13日目以降は新大関の朝乃山が毎日結びをとるという非常事態になった。
 しかし朝乃山は新大関のプレッシャーをものともせず10日目に御嶽海に苦杯をなめたが、12日目まで1敗で照ノ富士とトップを並走していた。しかし13日目、照ノ富士に上手を許し寄り切られると、14日目には照強の足取りの奇襲に遭う。それでも千秋楽は照ノ富士しだいでは優勝決定戦の可能性も残していたが、決定戦になることなく終わった。それでも新大関での13勝は立派なもの。看板力士としての役割は十分に果たした。
 序二段から這いあがり、ついに幕内復帰を果たした東の幕尻照ノ富士は、5日目にもと大関同士の対戦で高安にうまく取られて敗れたものの、12日目まで1敗を守り、13日目には新大関の朝乃山を下して単独トップに。14日目、正代に寄り切られたが、照強の援護射撃で1差を保ったまま千秋楽に臨み、御嶽海を一気に寄り切って5年ぶりの優勝を果たした。また殊勲賞と技能賞も同時受賞。前回の優勝は本人がインタビューで口にしたように「イケイケ」で優勝したものだが、今回は幾度もの挫折を乗り越え、克服しての優勝。とはいえ、もと大関とはいえ幕尻の力士に優勝をまたも許してしまった上位陣のふがいなさは北の富士さんならずとも嘆きたくなるところだろう。「番付の意味がないよ」と北の富士さんはテレビ解説で嘆息した。
 不思議な力士は御嶽海。白鵬を倒すだけの力を持ちながら、強く出てくる霧馬山、貴景勝、照ノ富士にはなすすべもなく敗れる。このまま大関に昇進しても横綱は期待できそうにない。白鵬を倒し、優勝争いに残ったため殊勲賞。
 優勝争いを面白くしたのは正代。特に照ノ富士線は初場所に徳勝龍に敗れた反省を生かして踏みこみのよい相撲で、三役以上で照ノ富士に勝った唯一の力士となった。堂々の敢闘賞。
 白鵬を倒したことで大栄翔も殊勲賞。しかし、それが理由ならば「千秋楽に勝った場合」などという条件は不要だったのでは。ならば「照ノ富士が優勝した場合」という条件を付けて高安も候補にのせてもよかったのではと皮肉の一つも書きたくなる。
 三賞は取れなかったが、新入幕の琴勝峰はきびきびとした相撲で勝ち越し。下位に落ちた琴奨菊、高安、栃ノ心らもと大関陣も貫録を見せてくれた。三役で初めて勝ち越した隠岐の海、前進力が戻って10勝した妙義龍にも何かあげたいところ。
 白鵬が休むと、意外な力士が優勝する。そんな法則ができつつある。難しい条件で開かれた場所だけに、点数の付けようはない。とにかく最後まで感染者が関係者にも観客にも出ていないようなので、本当によかった。

 もと関脇の栃煌山が場所前に引退。高校卒業後、澤井(豪栄道)、影山(栃煌山)はライバルとして切磋琢磨して幕内まで昇進。大関に昇進するチャンスは栃煌山にもあった。旭天鵬と平幕同士の優勝決定戦でもし優勝していたら、その後の展開も変わっていただろう。気の強さで豪栄道と差はついてしまったが、その温厚さは指導者としては強みになるだろう。今後は年寄清見潟として後進の育成にあたる。お疲れ様でした。

(2020年8月2日記)


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