大相撲小言場所


十一月場所をふりかえって〜貴景勝、決定戦で照ノ富士下す〜

 今場所も両横綱は全休。大関陣も朝乃山が2日目に照ノ富士線で腕を傷めて3日目から休場。新大関正代は4日目に大栄翔に押し出されて土俵から落ちた際に足を傷めて5日目から休場。貴景勝がひとり大関としてプレッシャーを感じつつも前に出る圧力で初日から8連勝。9日目に翔猿に不覚をとり土俵に這わされたが、10日目以降はよく切り替えて連勝を続けた。
 優勝争いを盛り上げたのは三役に返り咲いた照ノ富士と、幕尻の志摩ノ海。特に志摩ノ海は12日目まで1敗を守り、初場所の徳勝龍の再現かとさえ思わせた。しかし13日目、貴景勝戦で力量差を感じさせるいなしに体勢を崩して敗れると、2敗で並んだ照ノ富士にも完敗。しかし場所を盛り上げた功労者として新入幕以来の敢闘賞。照ノ富士は中日に大栄翔に敗れると、9日目にはもと大関対決となった高安戦で連敗。そのままがたがたといくかと思われたが、10日目に翔猿に何もさせない吊り出しで勝つと、そのまま勢いを保つ。審判部も割りを崩して小結ながら千秋楽に結びの一番で貴景勝にあてた。
 千秋楽は本割では照ノ富士が貴景勝を組み止めて寄り倒し、優勝決定戦に。貴景勝はここで現大関の意地を見せ、一方的に押し出して大関として初めて優勝した。
 これだけ見ると白熱した場所だったかのようだが、大関以上が貴景勝一人だけという点では盛り上がりに欠ける。ここに白鵬や鶴竜が出ていて立ちはだかったらどうなったかなどと考えるのはよそうと思っても、やはり考えてしまう。
 そういう意味では志摩ノ海とともに場所を救ったのは照ノ富士。両膝は万全ではないだろうが、師匠譲りの技能相撲も冴え、技能賞を獲得。優勝決定戦までもちこんだのだから、殊勲賞を出してもよかったのではないか。条件は「優勝したら殊勲賞」というもの。それはちょっとハードルが高すぎて、三賞の意義からは外れているのではないかと感じた次第。貴景勝に勝った翔猿は負け越したため、殊勲賞はなし。千代の国が「千秋楽に勝って10勝したら」という条件付きで敢闘賞をもぎ取った。それならば後半強い突き押しを見せて10勝した大栄翔にも何かあげたい。初めての上位戦を経験し、勝ち越した琴勝峰も場所を盛り上げた一人だし、北勝富士も後半は持ち味の前に出る相撲で11勝して土俵を沸かせた。
 とはいえ、大関ひとりだけの場所ということもあって審判部はそこに物足りなさを感じたのかもしれない。
 決定戦に持ちこまれたとはいえ、大関の面目を保った貴景勝は、来場所は横綱昇進がかかる場所となる。
 十両では翠富士が決定戦で旭秀鵬を破って来場所の新入幕を確実にした。
 炎鵬が元気がなく、上位挑戦の翔猿も動きはよかったが負け越し。それだけに、翠富士にも期待したい。
 幕下の竜虎が優勝して再十両を確実にし、納谷も筆頭で5勝をあげて新十両はまちがいなかろう。こうした若手の台頭が来年の相撲界を活性化させると期待したい。

 もと大関琴奨菊が、場所途中で引退。がぶり寄りの強さで大関にまで駆けあがった。日馬富士らが元気な時期に初優勝したのは特筆もの。大関陥落後も若手に対して変わらぬがぶり寄りで対抗し、存在感を示した。今後は秀ノ山親方として後進の育成にあたるという。お疲れ様でした。

 もと小結臥牙丸も場所途中で引退。関取の座を滑り落ちついに引退した。その体型、勝った時と負けた時の表情の落差など独特な存在感があった。馬力は一級品ながら、前に落ちることが多かったのが小結どまりの原因か。それでも土俵に欠かせぬ役者として記憶に残る力士だった。今後は帰国せず日本にとどまって相撲普及に関わっていきたいという。お疲れ様でした。

(2020年11月22日記)


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