コロナウィルス禍は角界にも影響を与え、荒汐部屋の力士たちが陽性反応を示したと思ったら、横綱白鵬までが罹患してしまった。進退を賭け、連合稽古でも大関朝乃山らに胸を出して調整してきたのに、さぞかし無念だろう。
今場所の焦点は大関貴景勝が連続優勝またはそれに準ずる成績をあげれば横綱昇進は確実。衰えの見えた白鵬や故障がちで毎場所休場している鶴竜にかわる新世代の横綱の誕生を心待ちにしているのである。
ただ、押し相撲一本の貴景勝は、先場所の照ノ富士との本割のようにがっしりとつかまってしまうと力を発揮できない。押してよし組んでよしという力士が横綱大関として長持ちするのに対して、押し相撲一本の力士が長持ちしないのは、どうしても自分の形にならないと勝てないからである。まわしを取られた時にどう対応するか、そこが貴景勝が連続優勝できるかどうかのポイントになると思う。
朝乃山と正代の両大関は先場所怪我のために途中休場してカド番の場所となる。両力士とも自分の型をもっているだけに、怪我さえ治っていれば勝ち越しはそう難しくないが、怪我の再発を恐れて消極的な相撲になると苦しい場所になるだろう。私としてはこの三大関ともと大関の照ノ富士による優勝争いが望ましいのだけれども、まずはカド番脱出を目指して一番一番自分の相撲を取り切ってもらいたい。
先場所は優勝同点となった照ノ富士は、大関再昇進のためにも10勝以上しておきたい場所になる。両膝の分厚く巻かれたサポーターでわかるように、膝はまだ完治したわけではないのだろう。前に出ている分には問題ないが、先場所の優勝決定戦のように一方的に受け身になると踏ん張り切れない。とにかく出足をきかせて前に出る相撲で優勝争いに加わりたいところだ。そうすれば、再大関どころか横綱も視野に入ってくる。序二段まで落ちながらこの位置まで戻ってきた精神力は現役大関陣にない強みでもある。
御嶽海と入れ替わるように大関候補になってきた隆の勝の相撲にも注目だ。ひと場所ごとに力をつけてきているのが目に見えてわかる。大関貴景勝と稽古ができるというあたりも利点だろう。大栄翔もまた頭角をあらわしてきている。どちらも稽古熱心と聞く。稽古嫌いといわれる御嶽海が色あせてきたのと好対照だ。
翔猿、照強といった小兵力士に続く新入幕の翠富士の相撲にも注目したい。若手では琴勝峰、琴ノ若ら有望力士が力をつけてきているだけに、関取に戻ってきた曲者の宇良ともども期待したい力士の一人である。
待望の新十両を果たしたのは納谷改め王鵬。腰高なのが気になるが、祖父に大鵬、父に貴闘力という名力士をもつという話題性だけでなく、実力で存在感を示してほしい。兄弟の夢道鵬、鵬山と三人が幕内にそろう日が待ち遠しい。
新型コロナウィルス感染者で出場できなくなった力士が続出。白鵬と炎鵬、石浦の所属する宮城野部屋、若隆景、若元春らの所属する荒汐部屋、魁聖、旭秀鵬、旭大星らの所属する友綱部屋、千代の国、千代大龍、千代翔馬らの所属する九重部屋の各力士が休場となった。人気力士も多いので、寂しい限りである。それでも開催に踏み切った協会の英断にファンとしては感謝したい。むろん、これらの力士たちは番付据え置きの措置をとってあげてほしい。
最後に、鶴竜について書く。
横綱審議委員会から、白鵬とともに「注意」を受けたが、怪我が完治していない上に稽古不足で、休場を発表した。先場所、遠藤戦で腰砕けに崩れた相撲を見ても、もう限界かと思われる。それでも現役にしがみついていたのは日本国籍取得が遅かったためではないかと推察される。日本国籍を取得した今、現役にしがみつかなければならない理由もなくなった。私としては、これ以上みじめな相撲はもう見たくない。春場所に再起を賭けるというが、師匠の陸奥親方は「来場所に進退を賭けさせる」と明言しているが、覚悟を決める日はそう遠くないだろう。
(2021年1月9日記)