大相撲小言場所


初場所をふりかえって〜大栄翔突き切って初優勝〜

 今場所も両横綱は全休。新型コロナウィルスに感染した白鵬の休場はやむを得ないとしても、鶴竜はまさに来場所は背水の陣ということになる。今場所の焦点は連続優勝で横綱という貴景勝の相撲だったが、初日から元気なく4連敗。9日目まで2勝しかできず、10日目から休場。一転して来場所はカド番となる。朝乃山も中日までに3敗を喫し、中盤に持ち直してカド番は脱出したものの最後まで優勝争いにからむことなく終わった。11勝はしたものの圧倒的な強さは示せず。正代は優勝争いに最後までからんだが、11日目の隠岐の海戦は本割もとり直しも$物言いのつく微妙な相撲。辛うじて勇み足で星は拾ったものの、押しこまれて土俵際で逆転という相撲が多く、14日目の照ノ富士戦は熱戦となったものの最後に力尽き、先頭の大栄翔に1差をつけられ、優勝を逃した。
 番付運が悪く前頭筆頭に留め置かれた大栄翔が、圧倒的な突き押しで初日から三役力士全員を突き飛ばし、8連勝。9日目に硬くなったか宝富士に苦杯をなめ、11日目には同じタイプの阿武咲に突き落されたが、12日目の明生戦で土俵際で辛うじて残り星を拾うと、以降は開き直って前半戦の突き押しの強さを取り戻した。千秋楽は隠岐の海を圧倒して勝ち、三役に復帰できなかった悔しさを晴らすような初優勝。殊勲賞と技能賞も同時受賞で優勝に花を添えた。
 大関陣よりも大関らしかったのは再大関を目指す照ノ富士。千秋楽に勝利という条件付きではあったが、最後まで出足の良い相撲で11勝をあげ、来場所の大関昇進に期待をもたせる技能賞。千秋楽の向正面解説の舞の海さんからは「横綱昇進まで行くのではないか」と言われるほどの力強い相撲を取り続けた。
 新入幕で活躍したのは翠富士。得意の肩透かしで10勝のうち5勝をあげる相撲が評価され、これも千秋楽に勝利という条件付きではあったが、技能賞。
 前半の土俵を沸かせたのは再入幕の明瀬山。幕尻で6連勝した時は昨年の同部屋の徳勝龍の再現かと思わせたが、そこから5連敗したのはこの力士らしい。そこから立ち直って9勝目まであげ、千秋楽に勝てば敢闘賞というところまで行ったが、輝の寄りに網打ちで返して胴体取り直し。二番目はあっけなく寄り切られて敢闘賞を逃した。やはり三賞を逃したのは琴ノ若。出足の良い相撲で白星を重ねたが、やはり千秋楽に敗れて祖父からの三代続いての三賞を逃した。
 土俵をかき回したのは御嶽海。序盤、大関戦は素晴らしい相撲で総なめにしたのだが、格下の相手には力を出せず一時は負け越しかとも思われた。中盤からは持ち直して9勝をあげたが、このままでは大関候補の一角にも入れないのではないか。隆の勝も実力を発揮して9勝。安定して力を出せるようになってきた。
 他に目についたのは、8勝にとどまったが生きのいい相撲で存在感を見せた明生。序盤に5連敗して叔父のもと朝青龍からツィッターで容赦ない書き込みをされた豊昇龍はそこから9連勝。ただ、立ち合いの変化も目立ち、三賞候補には残れず。阿武咲も出足の良い相撲で土俵を沸かせた。
 照強、翔猿ら小兵力士はよくがんばったものの星はのびず負け越し。それでも存在感は十分に見せてくれた。
 新型コロナウィルス禍で九重部屋、宮城野部屋、荒汐部屋、友綱部屋の力士が全休し、鶴竜、貴景勝、美ノ海、勢も休場して20名近い関取の休場者数になり、途中で中止も懸念された場所だが、なんとか千秋楽まで開場できたのは非常によかった。それでも土俵上が寂しくなったのは間違いなく、今後の場所開催をする上でいろいろと課題を抱えた場所になったといえる。
 なによりも初場所は6年連続で初優勝力士が出るという「荒れる場所」になってしまっていることに危機感を感じる。やはり毎場所、横綱や大関が優勝争いの主役であってほしい。大栄翔はよくやったと思うが、それだけ役力士がふがいなかったということだろう。面白い場所ではあったけれど、もうそろそろこういう面白さではない本格的な優勝争いのある場所を見たいものである。

(2021年1月24日記)


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