大相撲小言場所


令和三年春場所展望〜大関復帰に臨む照ノ富士〜

 浪花の春は相撲から……のはずが、新型コロナウィルス感染症拡大防止のため、両国国技館で挙行されることが決まった。半ば覚悟してはいたけれど、やはり2年連続で相撲をじかに見られないとなると、なにか忘れ物をしているような感じで落ち着かない。
 しかし、先場所は横綱白鵬をはじめとして、感染者が多く出たために濃厚接触の危険性の高い同部屋の力士たちが軒並み休場することになってしまったのだから、協会が慎重にならざるを得ないのもよくわかる。頭では理解しているつもりでも、気持ちはやはり「年に一度の楽しみを奪うな」である。
 力士にとっても夜の外出の禁止など、さぞかしストレスのたまることだろう。そんななか、もと幕内時津海の時津風親方が場所中に再々夜の街に繰り出していたということで、ついに退職勧告を受け、本人からも退職願が出されていたこともあり、角界を去ることになった。現役力士の阿炎がそれで謹慎処分となり、関取の座から陥落してしまっているのを親方は他人事として見ていたのだろうか。せっかく正代が大関に昇進し、名門復活という具合になってきていたのに全く残念なことである。新しい師匠はもと幕内土佐豊。現役時代は地味な力士であったが、双葉山の創設した名門部屋の看板をしっかりと背負い、正代を横綱にまで育てるという重責を担っている。がんばってほしいものだ。
 さて、両国国技館で行われる春場所の目玉は関脇照ノ富士の大関復帰だろう。三役以上で3場所通算33勝という目安から行けば、9勝すれば大関昇進ということになるけれど、昇進直前の場所が9勝どまりというのでは納得できないものがある。33勝に達していなくとも、相撲内容が大関にふさわしいものであれば昇進させていたという例もある。ここらあたりの番付運というものは、かんたんに数字だけで割り切れないものがあるから、面白いのだ。今場所の照ノ富士には悪くとも10勝はしてもらいたい。三賞の条件でも10勝という数字が出されることが多い。15日間のうち、10勝以上しないと活躍してというようには見てもらえないのだ。ここ数場所の照ノ富士を見たら、10勝は間違いないとは思うが。
 番付運の悪さでは先場所優勝した大栄翔をあげなくてはなるまい。先場所も本来なら三役に復帰できるはずだったのが、前頭筆頭に据え置かれた。幕内最高優勝を飾れば関脇昇進は間違いない成績だったけれど、上位力士が軒並み勝ち越したため、小結どまり。いくらなんでもこれでは力士のやる気をそいでしまうのではないか。もし今場所も大栄翔が10勝以上をあげるようであれば、大関昇進前3場所の起点は先場所からということにしてもらいたい。もっとも、押し相撲はその時々の調子で大きく勝敗が変わる。先場所の貴景勝がそうで、もし初日に勝っていればそのまま一気に優勝まで突き進んだかもしれない。大栄翔も、初日から上位と当たる。ここで白鵬あたりを倒したら波に乗るだろうし、出鼻をくじかれると大敗となるかもしれない。
 先場所は土俵際での新勝でなんとか星をつないだ正代も、大関3場所目とあって部屋のごたごたはあっても安定した相撲を見せてくれるだろう。カド番の貴景勝は太り過ぎた体を絞って臨む。押し相撲特有の不安定さも、序盤でつまづかなければ実力的にもカド番脱出はそう難しいことではあるまい。朝乃山は大関昇進後、優勝争いになかなかからめないでいるので、ここらあたりで存在感を見せてほしいものだ。
 上位には勝つが下位にもろい御嶽海、照強、翔猿、翠富士の小兵力士たちの活躍にも期待したい。特に翠富士は得意の肩透かしを相手に研究された時にどう相撲を取るか。十両に落ち、先場所は横綱白鵬のコロナウィルス感染のため休場した炎鵬、着実に復活への道を歩む宇良の相撲が十両の土俵では注目したいところ。
 そしてなにより休場明けの横綱。白鵬は感染症で落ちた稽古量をどれくらい取り戻しているか、残念ながら鶴竜は怪我のためにまた休場。いよいよ引退勧告も覚悟しなければなるまい。白鵬はうまく滑り出せたらあとは波に乗れるだろうが、序盤の相撲が場所全体を左右することになるだろう。白鵬も横綱審議員会から引退勧告一歩手前のところまで追いこまれているだけに、進退を賭けて必死で勝ちに行くことが予想される。かちあげと称するエルボースマッシュや張り手と称するカウンターチョップが炸裂するのか、そのあたりにも意地悪く目を配っておきたい。
 とにかく久しぶりに横綱が出場する。土俵入りがあるだけでも土俵は締まる。直接見に行くことはかなわなかったが、テレビ画面でしっかりと見届けたい。

(2021年3月13日記)


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