先場所の途中に鶴竜がついに引退を表明。当面は特権を生かして鶴竜親方として協会に残ることになった。
日本国籍を取得するまでは、横審から何を言われようとも一切言い訳をせず休場を続けてしのぎ、最後に自分の相撲を取ってから引退という図を描いていたように思われるが、残念ながら本場所の土俵に上がれる状態には戻らず、引退を決意した。この間の葛藤については、鶴竜本人にしかわからないものがあるので、たとえ横審でも何も言うことはできまい。
幕下時代から、物静かな雰囲気で黙々と地味に勝つという感じの力士だった。ただ、努力家だったことに間違いはなく、着実に地位をあげ、気がついたら横綱にまで上り詰めていたという印象がある。横綱昇進も2場所連続優勝ではなかったし、横綱に昇進してからも白鵬や日馬富士の後塵を拝し続けていた。
派手な大技は使わず、前さばきよく自分の形に持っていき、速攻で勝つという技巧派横綱だった。人格者として知られ、幕下陥落中の阿炎が腐っていたのを諭した、師匠の死で移籍した陸奥部屋で伸び悩んでいた霧馬山に稽古をつけて幕内にまで育て上げたりといった後輩たちに対する面倒見の良さのエピソードは多い。力士生活晩年の葛藤も、指導者としてはプラスに働くことだろう。個人的には井筒部屋の再建をぜひ果たしてほしい。白鵬時代の名脇役として、記憶に残る横綱と語り継がれるにちがいない。
お疲れ様でした。
そして、照ノ富士である。大関陥落後、序二段まで下がり、そこから出直してついに大関再昇進を果たしたということ自体、素晴らしい人間ドラマである。しかも、この再大関はおそらく白鵬引退後は横綱として角界を引っ張る可能性が高い。強さでいえば現状の他の3大関とは格が違う。いつまでも取りこぼしの多い朝乃山、押し相撲特有のもろさと強さが同居した貴景勝、性格的なものか自ら前に出ようという覇気を感じさせない正代。それに対して、照ノ富士は治り切っていない膝の怪我というハンデを抱えながらも、土俵上の挙措など常に堂々としたものを感じさせる。今場所は照ノ富士の時代の新たな節目となる場所になるのではないだろうか。今場所の優勝は照ノ富士以外にイメージしがたい。
新型コロナ感染症対策のため、3日目までは無観客開催となり、4日目以降も緊急事態宣言が延長すればどうなるかわからない。そのような中で開催される夏場所が、コロナウィルス禍で閉塞的になってしまっているファンを救うものになってほしいと願うばかりである。
(2021年5月8日記)