大相撲小言場所


秋場所を振り返って〜照ノ富士、新横綱で優勝飾る〜

 新十両の北青鵬が新型コロナウィルス感染症の検査で陽性となり、他にも陽性者が出たため、宮城野部屋全体が休場となった。そのため新横綱の照ノ富士がいきなり一人横綱としてつとめることになった。
 照ノ富士の強さは群を抜いており、8日目まで勝ちっ放しと独走態勢になったかに思われたが、8日目に大栄翔の突き押しにまわしをつかむことができず、大栄翔のさがり、手首のサポーターまで引っ張りそれでも抵抗むなしく押し出された。12日目には明生に中に入られると、小手投げも下手投げに打ち返されて2敗目を喫する。14日目を迎えたところで、3敗でついていったのは妙義龍、阿武咲、遠藤の平幕勢。しかし阿武咲と遠藤はあっけなく脱落。妙義龍が大関正代を一方的に下して千秋楽まで優勝争いの興味をつないでくれた。そのため審判部は割を崩して優勝争いをしている力士を上位にあてる。なんと大関同士の相撲がなくなるという珍事まで起こった。
 千秋楽、新関脇での勝ち越しのかかる明生と妙義龍があたる。さすがに緊張したか、妙義龍は体が動かず明生の引きにばったり。ここで照ノ富士の優勝が決まった。しかし照ノ富士は力を抜くことなく、結びの一番で正代を圧倒し、新横綱優勝に花を添えた。
 殊勲賞は照ノ富士の初金星を勝ち取った大栄翔。新関脇という位置で照ノ富士を破り、勝ち越した明生に何もないのはなぜだろう。技能賞は妙義龍。敢闘賞は条件付きが二人。優勝した場合の妙義龍と千秋楽に勝った場合の阿武咲。妙義龍の条件だと、本割で勝った上に決定戦で照ノ富士に勝たなければならないというハードルの高さ。これはひどいと思う。千秋楽に勝てばという条件だけではいけなかったのか。照ノ富士が負けなければ敢闘賞がもらえないという条件は妙義龍にはどうしようもないわけで、この条件はあんまりだと思う。阿武咲、遠藤は最後まで優勝争いに残ったのだから、無条件で敢闘賞を出してもよかったのではないか。今場所も三賞選考には疑問が残った。
 他には10勝をあげた隠岐の海の老練の技能、終盤持ち直して勝ち越した若隆景、今場所も勢いのある相撲を取った霧馬山、発熱のため途中休場から再出場で勝ち越しは逃したが、若隆景戦で二丁投げから一本背負いという大技を決めるなど運動能力の高さを幕内上位でも発揮した豊昇龍などが目についた。
 貴景勝はカド番で初日から3連敗するなど苦しい出だしになったが、中盤は強い突き押しでなんとか勝ち越した。体調は万全ではないようだが、常に全力で相撲を取る姿勢は立派だった。来場所は怪我を少しでも治して優勝争いに加わることを期待したい。残念なのは正代。今場所も辛うじて勝ち越したが、平幕の妙義龍に一方的に負けるなど、大関らしい役割を果たせずに終わった。
 十両優勝の阿炎が謹慎明けから人が変わったような正攻法の相撲を取るようになり、来場所は再入幕が確実。インタビューでも大人の対応ができるようになった。このままいくと、一気に大関へ駆けあがる可能性もありそうだ。御嶽海や隆の勝はうかうかとしてられませんよ。
 優勝争いは独走とはならなかったけれど、常に照ノ富士が優位に進め、対抗馬となるべき大関がもたつくなど、今場所は内容的には今ひとつ。横綱に昇進しそうな力士が見当たらない現状は寂しい限りである。、

(2021年9月26日記)


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