大相撲小言場所


九州場所を振り返って〜照ノ富士が初の全勝、阿炎快進撃〜

 白鵬の引退により、照ノ富士は名実ともに一人横綱となった、その自覚からか、膝の具合がよくなったのか、相手の相撲を受けて立つ「横綱相撲」が目立った。相手に力を出させておいてから、自分の相撲で相手を下すといった具合。このスタイルは15日間ぶれることなく続いた。全勝で新横綱の場所から2場所連覇は当然だろう。
 場所を盛り上げたのは再入幕の阿炎だ。規則違反のペナルティのため幕下からの出直しを余儀なくされ、さらに師匠の判断で、家族と離れて錣山部屋で生活することになった。その間の心境は推し量るほかないが、それまでのいささか子どもっぽい自由奔放な言動から、非常に落ち着いたものに変化し、先場所の十両優勝した相撲も上突っ張りから叩くという以前のスタイルとは違い、徹頭徹尾突き押しで勝ち切るものだった。今場所もそのスタイルを続けていった。1敗で横綱照ノ富士を追い、14日目は割を崩して横綱と対戦し、土俵際まで追い詰めてみせた。残念ながら優勝は逃したが、場所を盛り上げた功労者である。三賞は敢闘賞のみ。大関貴景勝に勝っているのだから殊勲賞も出していいし、今場所の突き押しは相撲の基本となる素晴らしいものだったので技能賞もふさわしかった。せめて2つは出すべきだったろう。テレビ解説の北の富士さんも「相変わらずしぶちんだねえ」とつぶやいていた。
 大関貴景勝は14日目に照ノ富士への挑戦権を賭けた阿炎との一番に敗れたが、それまでは1敗で照ノ富士を追い優勝争いに加わった。現状、照ノ富士の好敵手といえるのはまず貴景勝だろう。
 それに対して正代は序盤から自分の相撲を取り切ることができず、今場所も8勝止まり。辛うじて地位を守るにとどまったのは寂しい。次の大関の座を狙う御嶽海も、11勝と星は残したものの、中盤の肝心なところで取りこぼし、優勝争いにからむことなく終わった。白星の数だけで大関に昇進できるものではない。照ノ富士に敗れた相撲は内容的には全く歯が立たないというもので、三役力士としての技量は高いが、一段上の大関となると心もとないという印象を残した。
 平幕に下がった隆の勝は、千秋楽に阿炎仁勝てばという条件を突破して敢闘賞。しかし、それほど活躍したという印象がない。それよりも久々に突き押しが冴えた玉鷲の方が敢闘賞にふさわしかった。
 技能賞は宇良が初受賞。幕下以下からの再起でついに再入幕を果たしただけでなく、足取り、肩透かしなど相手の虚を突く相撲が評価されたのだろう。しかしこれが三賞初受賞というのは、やはり「しぶちん」の非難は免れまい。もし宇良が再起できずに終わっていたら、三賞なしで引退ということもあり得たわけで、三賞選考委員会の見識を疑われたことは間違いない。
 前半連勝で地力を見せた北勝富士、負け越したが出足に磨きのかかった明生などが印象に残る。
 十両優勝の一山本と、前半連勝した王鵬らが来場所は幕内に昇進して、その活躍が期待できる。
 阿炎の快進撃がなかったら、全体にあっさりとした相撲の多い低調な場所になっていたことだろう。

(2021年11月28日記)


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