今場所もっとも注目したい力士が三段目まで陥落した朝乃山、というのは少々寂しくもあるのだが、1年間の謹慎期間を経たもと大関がどのような相撲を取るのか、やはり気になるところだ。謹慎前の大関としての実力を7番とも発揮するのか。本場所の土俵勘が戻るまで時間がかかるのか。また、謹慎期間を経て別人のようになっ阿炎のようになるのか、謹慎前と大きな変化のない竜電のようになるのか。どちらにしても目が離せない。
幕内では、先場所は混戦から照ノ富士が脱出して優勝した。それもひとえに大関陣が序盤戦から脱落してしまったからなのだが、今場所の大関陣はどうなるのか。御嶽海と正代はカド番。正代は前回のカド番では奇跡的に後半戦強い相撲を見せたけれど、今場所は前半戦からそういう相撲を見せてほしいものだ。御嶽海は実は序盤で怪我をしてしまい、それをおして出場し、結局力が出ずに負け越した。怪我がどれくらい治癒しているのか。それによって条件も変わっていくだろう。貴景勝は慢性的に故障が続いている。先場所は辛うじて千秋楽に勝ち越しを決めたけれど、今場所も同じような状態が続くとなると少々厳しそうだ。
関脇の若隆景にはまだ数字的には新大関昇進のチャンスはある。優勝した春場所のように、無欲で自分の相撲を取り切ることだけ考えられるかがカギになると思う。先場所は特に前半戦はプレッシャーからか動きがよくなかった。その時の状態を薬にできているかどうか。大関陣の現状や、横綱が照ノ富士一人であることを考えれば、若隆景にはぜひ大関昇進を果たしてほしいのだが。
一気に大関まで突っ走るかと思われた阿炎が足踏み、つまづいてしまった。逆に大栄翔にチャンスが巡ってきた。ただ、大栄翔は四つになっての相撲に不安がある。突きと馬力一辺倒のままだと関脇どまりで終わってしまう。ここらあたりで、相手につかまった時にどう取るのかを会得してほしい。
新入幕は錦富士。同部屋同期のライバル翠富士に先行されてきているだけに、追いついた今場所はぜひ持ち味の粘りのある相撲で三賞を狙っていってほしい。
というわけで、今場所の注目はやはり朝乃山。大関時代はおっとりしたところが見られてなかなか優勝争いに食い込めなかったが、三段目に陥落したことでどう変化しているか、一気に大関に復帰するくらいの勢いを今後見せてほしい。
元小結の松鳳山が引退。鋭い眼光と気迫あふれる相撲は他の力士にないものがあった。最近は十両にとどまっての相撲が多かったが、全力を出し切るような相撲はまだまだ見ていたかった。今後は協会には残らず飲食業に従事するとのことだが、こういう力士こそ後進の育成にあたってほしかった。もっとも本人の弁によると「自分は指導者向きではない」そうだから、本人の意思を尊重するしかない。松ヶ根部屋時代から二所ノ関に名跡変更して以降も長く取り続けた名脇役が、ついに土俵を降りる。長い間、お疲れ様でした。
(2022年7月9日記)