大相撲小言場所


名古屋場所を振り返って〜逸ノ城初優勝も、コロナ禍で大量休場〜

 とんでもない場所になった。場所前に田子ノ浦部屋から新型コロナ陽性者が出て高安が休場。場所に入ってからも出羽海部屋、佐渡ヶ嶽部屋、伊勢ノ海部屋、放駒部屋、追手風部屋、片男波部屋、玉ノ井部屋、八角部屋と次々と新型コロナ陽性者や発症者が続出し、幕内では不戦勝が5番続くという日もあった。幕内の休場者は御嶽海、大栄翔、隆の勝、琴ノ若、玉鷲、高安、遠藤、翔猿、隠岐の海、北勝富士、錦木、琴恵光、琴勝峰、一山本、剣翔、大奄美(怪我人も含む)の16名、十両では東龍、東白龍、大翔鵬、魁勝、島津海、石浦、欧勝馬(怪我人も含む)の7名。幕下以下も相当数の休場者が出て、14日目からは開場時間を遅らせて始めるという措置がとられた。審判部も割を組むのが大変で、幕内対十両、十両対幕下という取り組みを増やして水増しのように番数を確保せねばならなかった。
 番付面では特例措置がとられるとのことだが、勝ち越しや負け越しが決まった力士の扱いなどはまだはっきりとした基準は発表されてない。
 これで命拾いしたのはカド番大関御嶽海。6日目まで2勝4敗と苦しい星だったが、特例措置のおかげで大関陥落はなし。来場所もカド番のまま相撲を取ることになった。怪我が治り切ってなかったが、治療期間が与えられたことになる。
 反対に残念だったのは翔猿、錦木、琴ノ若ら中番まで好調だった力士たち。優勝争いに踏みとどまる可能性もあり、三賞も期待できただけに、ファンとしてもこの休場でその機会が失われたことが残念でならない。特に錦木は初の三賞の可能性もあっただけに、よけいに残念だ。
 序盤に横綱大関陣が崩れたため、優勝争いは混戦に。一時は逸ノ城や錦木らが優勝争いの先頭に立っていた。よく踏みとどまり、優勝争いに照ノ富士と貴景勝が千秋楽まで残ったのは喜ばしい。驚いたのは正代で、序盤戦を1勝4敗と苦しみ、このまま大関陥落かと思われたのに、中盤から連勝し、なんと14日目には優勝争いのトップに立っていた照ノ富士を引き落とし、座布団が飛んで来て頭に当たるというくらいの活躍を見せ、10勝をあげて場所を締めくくった。早々と陥落を予想した北の富士さんや舞の海さんに、千秋楽の解説で「素直に謝るよ」と言わしめた。
 千秋楽、12勝で優勝決定戦を待っていた逸ノ城だったが、照ノ富士が貴景勝に押し出され、優勝決定。殊勲賞もあわせて獲得。まわしを引いてからの出足が今場所は特によかった。入門時は怪物と言われていたほど強かった逸ノ城の初優勝は遅いくらいだろう。
 休場していなければ錦木、翔猿、琴ノ若らが三賞候補に上がっていただろうが、それ以外には新入幕で10勝の錦富士が自動的に受賞したくらい。それなら入幕以来初めて10勝をあげた翠富士に技能賞の声がかかってもおかしくはなかったと思う。休場者が多い中、最期まで技師ぶりを見せてくれたのだから、せめて条件付き候補に挙げるくらいのことはしてもよかろう。
 場所としての評価は難しい。こんなに休場者が出てもなんとか千秋楽まで開催できてよかったとしか言いようがない。逸ノ城の初優勝は素直に祝いたいが、大量休場のために当たらずにすんだ相手もいるかもしれず、また上位陣の自滅に助けられた部分もある。それでも千秋楽の宇良戦など、内容的には非常に充実していたのは確かだ。

 三段目で朝乃山が優勝。再起を賭けて来場所以降も土俵に上がり続けることになる。さすが、実力差は歴然としていて、三段目の力士たちの歯が立つ相手ではなかった。来場所以降、どういう相撲を取っていくのか楽しみである。

(2022年7月24日記)


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