大相撲小言場所


秋場所を振り返って〜鉄人玉鷲、2度目の優勝〜

 横綱照ノ富士は9日目まで4敗。膝の状況の悪化は明らかで、高安戦では苦し紛れに蹴返しを見せるなど追い詰められていた。10日目から球場はやむを得まい。ここで奮起してほしいのは大関陣だが、貴景勝は中日まで2敗で踏ん張っていたが9日目から霧馬山、豊昇龍に連敗して優勝争いから脱落。千秋楽に辛うじて10勝したが、大関としては物足りない場所となった。正代は2日目から9連敗で、来場所はまたもカド番となる。常に受け身の相撲で先場所後半のような出足は最後まで取り戻せなかった。カド番の御嶽海は3日目の明生戦で押し倒されると、そこからは雪崩を打ったように連敗。在位4場所で陥落が決定した。
 関脇の若隆景は序盤に3連敗したのが響いて最終的には11勝で優勝時点の成績を残し、大関昇進に向けて再出発となり技能賞を受賞したが、最後まで優勝争いにからむことはできなかった。先場所優勝の小結逸ノ城はまるで別人のように相撲が軽くなり、翔猿に翻弄されて送り出された相撲など先場所にはとても見られない動きで負け越し。関脇豊昇龍と小結霧馬山は健闘したが、勝ち越しがやっと。
 今場所も優勝争いの主役は平幕力士。北勝富士が初日から9連勝で優勝争いを引っ張った。後半は思い切り突っ込んで引かれて落ちる相撲が目立ち、失速して10勝にとどまったが、場所を盛り上げた功労者となった。ただ、千秋楽に条件付きで敢闘賞候補となり、大栄翔に叩かれて三賞を逃したのは残念。もうこの「条件付き」というのはやめようよ。せっかくの功労者に賞を与えないというのはおかしいし、三賞の目的からも外れていると思う。
 10日目に北勝富士と並び、11日目の北勝富士との直接対決で押し出しで勝って単独トップに立った玉鷲は12日目に若元春に不覚を取ったが、終始強い突き押しを貫いて千秋楽まで2敗でトップに立ち続けた。追うのは高安。3敗で玉鷲を追いかけ、若手の霧馬山や豊昇龍もうまさと力強さで下し、千秋楽、玉鷲との対戦で勝てば優勝決定戦というところまで食らいついた。しかし悲願の初優勝も、玉鷲の押しの前についえた。敢闘賞は当然だが、本人は三賞よりも優勝、という気持ちだったのではないか。
 玉鷲は1横綱3大関総なめで2度目の優勝。先場所は部屋にコロナ感染者が出たため途中休場を余儀なくされたが、連続出場記録は継続という協会のいきな計らいもあってか初日から押しに押しまくった。敗れた相手が若隆景と若元春の兄弟だけだったというのは不思議な巡り合わせだが。殊勲賞は当然。
 場所を盛り上げたのは翔猿。一気に番付があがったが、俊敏な動きで横綱大関からも白星を上げ、殊勲賞。ただしこちらも千秋楽に勝てばという条件付き。別に勝ち越しがかかっていたわけではないのだから、この条件は殊勲賞の趣旨からいってもおかしい。千秋楽の相手は平幕の隆の勝。勝とうが負けようが殊勲賞とは何のかかわりもない相手。これに負けて殊勲賞を逃すということになったら、横綱大関に勝って平幕に負けたから殊勲の星は帳消しということになってしまう。優勝した玉鷲に突き飛ばされたから殊勲賞はなし、ならわからないではないのだが。やっぱりもうこの「条件付き」というのはやめようよ。
 奇手、伝えぞりを見せるなど、今場所も技師ぶりを発揮した宇良に技能賞が無いのは不可思議。8勝どまりでも、勝った相撲はどれも素晴らしい技能を見せていたのだから、これこそ千秋楽に勝ち越しを決めたら技能賞、でよかったのでは。三賞は難しかったが、ベテランの佐田の海が元気な相撲で上位相手でも9勝。こちらも技能賞ものの相撲だった。10勝をあげながら三賞を逃したのは若元春。千秋楽の三役そろい踏みでは東方で弟の若隆景と並んで四股を踏んだ。土俵際の粘りが際立っていた。
 十両では新十両の栃武蔵が優勝。スケールの大きな相撲で、将来が楽しみな力士の一人だ。幕下では朝乃山が勇磨に深気を取って全勝ならず。関取復帰は来場所に持ちこされた。協会が全勝したら十両昇進というところまで番付を上げてくれたのだが、なかなか思惑通りにならないのが勝負の世界と思い知らされた。故人的にはすんなりと関取に戻していいのかと思っていたので、これはこれで順当だと思ってはいる。
 玉鷲、高安ら平幕力士がレベルの高い優勝争いをしてくれたおかげで盛り上がった場所ではあったが、やはり三役以上の力士が優勝にからまないのは寂しい。だ、先場所のようにコロナ禍に水を差されるようなことがなかったのは本当によかった。

(2022年9月25日記)


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