大相撲小言場所


九州場所を振り返って〜阿炎、優勝決定巴戦を制す〜

 ついに年間6場所全て優勝者が違い、しかも3場所連続平幕優勝という予想外の年になってしまった。一番の原因は大関正代と御嶽海の不振にあるわけだが、その御嶽海は大関陥落翌場所に負け越し、正代はカド番の場所に負け越して大関陥落。来場所は彌蠱綱一人、大関一人の場所となる。大関は東西に各1名はいなければ番付の体裁が保てなくなるので、東大関貴景勝、西に横綱大関照ノ富士という形を取ることになるだろう。そういう意味では大関昇進の条件が甘くなるのだから、若隆景、豊昇龍、阿炎らに昇進のチャンスが転がり込んでくるだろう。
 大関で唯一責任を果たしているのが貴景勝。今場所は序盤に高安と明生に敗れ、9にちめにはとびざるに押し出されるなど早くも3敗を喫したが、終盤は6連勝で優勝決定戦にまで残ったのだから言うことなし。ただし、年間最多勝を若隆景に持っていかれたのが不覚といえば不覚か。
 優勝争いは関脇豊昇龍が11日目まで1敗で引っ張っていたが、単独トップに立った12日目、明らかに動きが硬くなり王鵬にはたきこまれると、貴景勝と阿炎に連敗して脱落。しかし場所を盛り上げた功労者として技能賞は当然。なぜ千秋楽に勝てば受賞という条件が付いたのかわからない。ここまで盛り上げて三賞なしということにでもなれば、三賞の意義が問われるところだ。
 2敗で追っていた高安は、豊昇龍の自滅にも助けられ、千秋楽に阿炎を下せば優勝というところまでいった。悲願の初優勝は、阿炎の突きに倒されて優勝決定戦となった。その阿炎は手術の後の全休明けで、三役の座を明け渡したばかり。中盤に好調の錦富士と突き押しをそらすのがうまい竜電に連敗して3敗に後退したが、これで追う身となり、あとは星をのばしていった。
 28年ぶりの優勝決定巴戦、一番目の高安と阿炎の相撲で高安が首を傷め、突き落としで阿炎が先勝。高安はしばらくうずくまって動けず。これを見ていた貴景勝が動揺していたのはテレビ越しにもわかった。思い切り当たれなかった貴景勝に対し、阿炎は得意の突きで相手の体を浮かせ、連勝して初優勝。驚くべき逆転優勝で、このような結果になるとは予想もできなかった。高安は殊勲賞だが、その顔にむろん喜びの色はない。阿炎は敢闘賞。優勝したのだから殊勲賞が妥当なところだが、三賞選考委員会は高安の優勝を前提に三賞を決めたのだろう。こういう時は優勝した方が殊勲賞で、逃した方が敢闘賞という条件をつけておくべきだった。
 中盤まで伸び伸びと勝ち星を重ねた錦富士は上位と当てられて失速し、三賞はなし。やはり優勝争いに加わっていた王鵬と輝にも何もなし。このあたりの平幕下位の力士に冷たいのが最近の三賞選考委員会だ。ここでも三賞の意義を問われるところだろう。玉鷲と翔猿は負け越しはしたが持ち味を発揮して土俵を沸かせた。新入幕の熱海富士には幕内はまだ家賃が高かったか4勝どまり。しかしこの経験が来場所以降生きてくると思う。生きてくると思う。
 幕下の朝乃山は6勝をあげ、来場所の再十両は確実。現在の大関の惨状を見るに、朝乃山の不在は大きかったと思われる。ここから一気に大関復帰に邁進してもらいたい。

 元小結の千代大龍が7日目を限りに引退を表明。突進力のつぼにはまった時の強さは大関をもたじろがせるものがあったが、江戸っ子らしい淡白さで勝利への執着が薄い力士だった。引退もまた潔いといえばよいが、あたら大器がその性格からか開花することなく終わったのは残念で仕方がない。引退後は協会には残らず飲食店の開店を目指すという。まだ具体的なことは決まっていないらしく、「焼肉が好きだから焼肉屋を死体」とのこと。第二の人生での成功を祈っている。

(2022年11月27日記)


目次に戻る

ホームページに戻る