大相撲小言場所


九州場所を振り返って〜霧島が大関の格を示す優勝〜

 今場所も照ノ富士の休場で、3大関が最高位。貴景勝は連続優勝なら横綱も、という場所だったが、7日目から豪ノ山、朝乃山に連敗して優勝戦線から脱落。9勝するのがやっとと、やはり怪我の影響は免れなかった。豊昇龍は5日目の豪ノ山戦でなかなか立てず1分以上のにらみ合いとなり、3度目の立ち合いでなんとか勝ったが、審判部に注意され、その後立ち合いのタイミングを見失い連敗するなど調子を落としたが、終盤立ち直り10勝をあげたのはなかなか立派なもの。霧島は序盤に高安と豪ノ山に土をつけられたが、中盤からは落ち着いた相撲で力強さよりもうまさが際立つ。14日目、2敗同士の熱海富士との一番は相手に相撲を取らせないうまさが光り格の違いを見せつけ、千秋楽は熱海富士が敗れてその時点で優勝決定。それでも結びの一番は貴景勝を突き落としに下して13勝での優勝。これで来場所は横綱昇進かという機運になった。
 序盤から中盤を引っ張ったのは一山本。先場所の十両優勝の勢いそのままに9日目には勝ち越し。しかし単独トップに立ったことでかたくなり、連敗して優勝争いから脱落した。それでも14日目には10勝目をあげたのだから、そのまますんなり三賞を出せばよかったのに、千秋楽に勝てば敢闘賞という条件付きになったのは不可解。金峰山を叩きこみに下して無事受賞したが、場所を盛り上げた功労者に対して三賞なしということにもなりかねなかった。琴ノ若は2敗同士の対戦となる霧島線に敗れ、翌日は緊張の糸が切れた感じの相撲で竜電に寄り切られた。そのせいか千秋楽、熱海富士に勝てば敢闘賞というかなりきつい条件が付けられた。硬くなっていた熱海富士を下して敢闘賞は受賞したが、熱海富士の優勝がかかった相撲を条件付きにするというのは、これも不可解。なぜなら熱海富士が優勝したら殊勲賞という条件がついていたので、琴ノ若の敢闘賞か熱海富士の殊勲賞かどちらかが賞をもらえないというのはあまりにも過酷な条件ではないか。力士をもてあそぶような条件をつける選考委員会の見識を疑う。
 先場所優勝決定戦で涙を飲んだ熱海富士は、それを成長の糧としてますます充実した土俵を毎日見せた。中盤、佐田の海にはうまさ負けし、平戸海には思い切った相撲を取られて連敗したが、組んで良し押して良し、粘りとしぶとさを感じさせる相撲ぶりは若い力士があらゆる経験を吸収して強くなっていく過程をはっきりと見せてくれた。残念ながら2敗同士の決戦で霧島に格の違いを見せつけられたけれど、これもまた糧として来場所も活躍するだろうという予感がする。無条件の敢闘賞は当然。しかし、先述したように千秋楽に琴ノ若に勝ち、霧島が負けて決定戦となって優勝したら殊勲賞という自分の力だけではどうしようもない条件で殊勲賞候補にあがったのは不可解。無条件で殊勲賞でいいではないか。それだけの活躍をしたと思うし、なにより優勝を賭けた相撲をとる霧島や、その相手の貴景勝に対しても失礼ではないか。
 優勝した霧島に土をつけた高安や豪ノ山が殊勲賞候補に上がらなかったのはさらに不可解。高安はもと大関だから、ということなのだろうが、今は平幕なのだから何か三賞を受けてもおかしくない。豪ノ山は初めての幕内上位で勝ち越し、大関陣を苦しめたのだから殊勲賞はともかく技能賞を出してもおかしくなかった。久々に相手の力を利用するうまさを見せた翠富士、下位ながら存在感を示して10勝した竜電など、三賞に値する力士はほかにもいた。
 大関昇進がかかった大栄翔は残念ながら9勝どまり。激しい突き押しをあてがわれて力をそらされた時、どうするかというところを改善しないと、大関昇進は難しいだろう。若元春はいつもの粘り腰が見られず負け越し、阿炎も前に落ちる相撲が目立って負け越すなど、実力派の力士の不調が目立った。
 再入幕の友風は惜しくも負け越し。それでも一時は土俵生命を断たれたかという大けがを克服してあと1勝で勝ち越しというところまで来たのだからすばらしかった。
 十両では決定戦で琴勝峰が大の里を下して優勝したが、本来なら豊昇龍や琴ノ若とともに三役として大関を目前にすべき力士だけに、この位置での優勝は喜べまい。それよりも決定戦では負けたが大の里の力強さが目立った。
 幕下ではベテラン北はり磨が全勝すれば再十両というところまで来たが、若くて勢いのある聖富士に敗れて再十両を逃した。それでもまだまだあきらめない姿と力強い相撲はぜひまた幕内の土俵にと思わずにはいられない。
 大関霧島の優勝で、今場所も順当な結果になったが、圧倒的な強さのある力士が不在という状況は変わらない。照ノ富士の現状を考えると、早く次の横綱が欲しいと思わせる場所だったが、それはもしかしたら熱海富士かもしれない。

(2023年11月26日記)


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