今場所は初日に一横綱四大関が敗れるという波乱の幕開け。横綱照ノ富士と大関貴景勝は2日目から休場した。大関霧島は2日目こそ平戸海に勝ったが、そこから4連敗して途中休場。カド番だったため、来場所は大関陥落ということになる。豊昇龍は初日から連敗したが、3日目から立ち直り、10勝をあげたのは大関としてはよくやったと思うが、やはり序盤から土俵を引っ張っていってほしかった。今場所から改名した琴櫻は6日目、大の里に寄り切られ、10日目には高安の前になすすべなく敗れ、優勝争いのトップに立ったにもかかわらず14日目に阿炎に土俵際で突き落とされて初優勝を逃した。優勝争いを引っ張ったのは新小結の大の里と平幕の湘南乃海、宝富士だった。湘南乃海は11日目に宝富士を下すと2敗で単独トップに立ったが、12日に初めての上位戦となる関脇阿炎と対戦し、明らかに緊張で体が動かず敗れ、琴櫻、大の里にも連敗し、悔し涙を見せた。千秋楽に明生に勝てば敢闘賞となるはずだったが、もう体が動かず完敗し、2度目の三賞を逃した。途中まで優勝争いを引っ張って盛り上げた功労は全く報われなかった。10勝していなくても敢闘賞の価値は十分にあったと思う。毎回書くけれど、勝てば三賞という条件をつけることに私は今回も反対したい。
終盤に優勝争いに名前がのぼったのは新入幕の欧勝馬。やはり千秋楽に勝てば新入幕10勝という自動的な決め方で敢闘賞。現陸奥親方の霧島(一)は9勝で新入幕三賞を受賞している。数字ではなく内容で三賞は決めるべき。
混戦を制したのは新小結の大の里。もと大関の高安にはうまさ負け、平戸海には速さ負け、そして大関豊昇龍にはうまさと速さで投げられたが、立ち合いの角度の良い当たりと速攻、前に出る馬力は入門わずか1年とは思えない。ここに確実性が加わったら大関昇進は確実だろう。なにより、新入幕から3場所連続で優勝争いに最後まで加わっていというのは只者ではない。場所前に、未成年の付け人に飲酒をさせて処分を受けたことなど、誰も口にすることがなくなった。
高安は初日から好調だったが腰痛で3日目から休場。しかし、9日目に再出場すると、豊昇龍、琴櫻と両大関を破る。残念ながら7勝どまりで三賞の対象から外れたけれど、どこかのスポンサーが特別賞を出してくれたらと思うほどの存在感を見せた。
十両では若隆景が1敗のみの圧倒的な強さで優勝、遠藤も全盛期の強さを思い出させる速攻相撲で12勝をあげて来場所の再入幕は確実。実力派の二人と、今場所全休の朝乃山が来場所の台風の目になるのではないかと思う。
序盤から上位陣がふがいない姿を見せたため、優勝争いそのものは混沌としていて面白かったものの、満点とは言えない場所だった。来場所は若い大関たちが横綱を狙うくらいの勢いを見せてほしいものだ。
元幕内琴恵光が引退。いかり肩で不器用に見えて、土俵際でのしぶとさなどが印象に残る力士だった。最高位は前頭三枚目。三役にも三賞にも縁がないまま、怪我でここ数場所は自分の相撲が取れず、今場所は幕下に落ち、初日から休場していた。立ち合いの変化などはほとんどなく、前に出る相撲に徹していたが、まわしを取ればしぶとく引き付け、逆転の投げもあった。祖父は十両松恵山。恵の一字を受け継いだ。今後は年寄尾車として後進の育成にあたる。あきらめない、しぶとい力士を育成してもらいたい。
(2024年5月26日記)