大相撲小言場所


令和六年九州場所展望〜新大関大の里誕生~

 今場所の目玉はなんといっても大関に昇進した大の里。まだ大銀杏が結えない「ちょんまげ大関」の誕生である。先場所優勝したことで、今場所も期待されているけれど、私は10勝できれば合格と見ている。ひとつには、たいていの場合、横綱や大関に昇進したあと、いろいろと引っ張りまわされてなかなか昇進前のような稽古ができないことと、秋巡業を感染症で休場するなど、せっかくの機会に十分に体調を整えることができなかったことがその理由である。中日あたりまではそれでも突っ走るかもしれないが、後半戦に息切れしてしまう新大関を何人も見てきている。相手も研究してきているだろう。そして、大関という負けられない地位に立ったことへのプレッシャーもあるだろう。そういう意味ではあまり期待しすぎてはいけないと思う。
 横綱照ノ富士の休場で、今場所も優勝争いはまた混沌としそうだ。霧島が13勝すれば再大関という可能性もあるが、あまり星勘定を気にしすぎないことが肝要だろう。今場所も10勝を目標に、前に出て勝つ相撲に集中すれば、星は後からついてくる。琴櫻と豊昇龍の両大関は、先場所も相手の土俵で勝負をつけることが少なかった。琴櫻などはあれだけの体格をしているのだから、祖父の横綱琴櫻のようにひたすら押し相撲に徹していけば、もともと四つに組んでも起用に相撲が取れる力士だけに、優勝も狙えるのだが、その器用さが邪魔をしているように思う。豊昇龍もまた、派手に決まる切れ味に頼りすぎて、相手のペースにはまることが多い。勝つときの豊昇龍はまず出足で機先を制して相手が不利になるように持っていく力強さがある。あとは精神面。特に序盤に気合が空振りして星を落とし、優勝争いに加われない場所が続いている。それだけに序盤の取りこぼしには気をつけてもらいたい。
 再入幕の尊富士や、先場所復活した若元春と若隆景の兄弟に期待したい。とくに若隆景は初優勝したころの力強さが戻ってきているので、返り三役に向けて活躍するのではないか。また、じわじわと地力をつけてきた王鵬にも注目したい。前頭筆頭という三役を目前にした地位でどれだけじっくりと落ち着いた相撲をとれるか。素質は申し分ないだけに、先場所あたりで何かつかみかけてきたのではないかと感じるだけに、上位陣もうかうかとはしていられまい。
 新入幕の獅司や朝紅龍は幕内のスピードに慣れたら二ケタ勝利もあるだろう。
 新十両では若碇の技能相撲が楽しみである。理論派の父とはまた違う速攻相撲が魅力。琴勝峰の弟の琴栄峰はまだ線が細いが、経験豊富な力士の多い十両でどれだけ通用するかが見ものだ。獅司に続くウクライナ力士の安青錦も力強さが出てきたら十両でも成績を残しそうだ。
 とにかく今場所も優勝争いがどうなるか予想が立たない。意外な力士の優勝もありそうなので、楽しみである。私個人は高安に今度こそ初優勝してほしいと思うのだが、腰痛には気をつけてほしいものだ。

 元関脇妙義龍が引退。速攻相撲の技能派として鳴らし、技能賞の常連でもあった。とにかく出足の良さは一級品。体格的にそれほど恵まれてはいなかったけれど、出足の良さとそこから繰り出す攻めで存在感を示した。今後は振分親方として後進の指導にあたる。ぜひ出足の速さを現役力士たちに伝授してもらいたい。
 元関脇碧山も引退。最初の師匠である久島海の田子の浦親方の早世で春日野部屋に移り、そこから徹底した馬力相撲で上位を脅かした。腕や足の太さは他の力士にはないもので、そこから繰り出す突き押しは脅威だった。部屋の兄弟子にあたる木村山の岩友親方の急逝で空いた岩友の名跡を継いだ。今後は後進の育成にあたることになるが、ブルガリア出身の2人目の親方としてどんな指導をしていくのか楽しみである。
 両力士とも、長く土俵に上がり楽しませてくれた。お疲れさまでした。

(2024年11月9日記)


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