大相撲小言場所


九州場所を振り返って〜楽日決戦で琴櫻が豊昇龍を倒し初優勝~

 千秋楽結びの一番、大関琴櫻と豊昇龍が優勝をかけて相星決戦。これです。これでこそ大相撲の理想の展開。横綱照ノ富士が休場し、大関が最高位。東西両大関が1敗で勝ち進み、勝った方が優勝。こういう展開の場所を待っていた。大関陣が序盤で星を落とし、平幕力士がトップに立つというような場所をここ数年しょっちゅう見せられてきただけに、今場所は理想的な優勝決定となった。豊昇龍は勝ちを焦り、上手をとったらすぐに強引な投げ。そこを持ちこたえた琴櫻が押しつぶすように力を入れると、豊昇龍の足が滑り土俵に倒れた。琴櫻は初優勝。祖父の横綱琴櫻と同じ27歳の初優勝。しかも大関昇進5場所目も同じという、物語的にも申し分のない優勝だ。今場所の両大関は立ち合いから強い当たりで白星を積み重ねた。豊昇龍は熱海富士の勇み足など幸運な白星があった。しかし、優勝を争うにはこういう運もついてまわる。琴櫻も土俵際の逆転勝ちという白星はあった。それでも両大関とも下半身がどっしりしていて、他の力士とは格の違いを見せつけていた。先場所は両者とも辛うじて勝ち越し。そのふがいなさを悔しさにかえ、十分にけいこを積んできたことがうかがえた。
 新大関の大の里は稽古不足がたたった。体の張りがなかった。それでも中盤まではその馬力と圧力で白星を重ねたが、終盤はスタミナ切れで9勝にとどまった。しかし新大関としてはよくやったと思う。プレッシャーのかかる位置での相撲は、私たちのような一般人には計り知れないものがあったに違いない。来場所は万全な体調と稽古量で臨んでほしい。
 優勝争いに途中まで絡んだのは平幕隆の勝。ただ、終盤上位戦が組まれて連敗し脱落したのは残念。それでも場所を盛り上げた功労者には違いない。だからこそ、無条件で敢闘賞をあげればよかったのに、千秋楽に勝てばという条件付きになったのは納得いかない。若隆景に勝って受賞を決めたからよかったものの、場所を盛り上げた功労者に何の賞もないという結果に終わる可能性もあったのだ。勝ち星が足りないということで条件付きになったというのなら、やはり千秋楽に勝って11勝をあげた豪ノ山に何もないのはおかしい。豪ノ山も連日素晴らしい出足と突き押しで場所を盛り上げたのだから、敢闘賞か技能賞を受賞してもおかしくなかった。
 豊昇龍に土をつけたということで阿炎が殊勲賞。ただ、日によってもろさも見せたのは残念。勝ち相撲はよく手の伸びる突っ張りで阿炎らしい相撲を見せてくれた。技能賞は若隆景。優勝した時以上におっつける相撲が冴えていた。ただ、阿炎同様、日によってもろさを見せたので、来場所以降に安定感のある相撲を見せてくれることを期待したい。再入幕の尊富士は10勝をあげ、実力を発揮したが、先場所の十両優勝の時ほど安定した相撲にはならず、少し物足りなさもあった。来場所は幕内中位に上がる。そこでどれだけ実力を発揮できるか。阿武剋が中盤まで勝ち星を伸ばしたが、上位と当たるとさすがにまだ地力がついていないところを攻められて9勝どまり。それでも来場所以降に期待させるものを見せられた。
 ベテランでは玉鷲が場所中に40歳となったが、若々しい相撲で見せてくれた。来場所は幕内上位に戻る。インタビューでも「もう一度三役に」と言っていたが、その気持ちがあればまだまだ力を見せてくれるだろう。千代翔馬は技の冴えを見せて11勝。下位での勝ち星だからか三賞には至らなかったが、こういったベテラン力士の励みになるような表彰はないものか。
 若元春は自分の型の相撲を取り10勝。大関昇進への起点となる。弟の若隆景とともに来場所も盛り上げてくれるだろう。
 十両では金峰山が圧倒的な突き押しで優勝。一皮むけた感じで、相撲のうまさが身につき始めたという感じがする。来場所は幕内に戻る。活躍を期待したい。
 三段目、元幕内の炎鵬が6連勝。残念ながら7番相撲で敗れて優勝はならなかったが、関取復帰へ着実に番付を上げている。こちらも楽しみだ。
 両大関の楽日決戦という理想的な展開となった今場所、番付最上位の力士同士による優勝争いが来場所以降も続いてくれればと願わずにはいられない。そして琴櫻も豊昇龍も来場所は横綱昇進をかける場所となる。すばらしい1年納めの場所となった。

 元横綱で相撲解説者の北の富士さんが逝去。ここ1年以上闘病生活を送っていたが、享年82は歴代横綱でも長命になる。力士というものは若い日に無理をしているため、短命な人が多いのだが、北の富士さんは長年NHKの解説で洒脱で粋でそして鋭い舌鋒で私たち相撲ファンを楽しませてくれた。感謝の思いしかない。特に舞の海さんとの掛け合いは絶品。NHKの専属解説として新たに琴風さんが加わったが、琴風さんと舞の海さんはどのようなコンビになっていくのか、楽しみである。

(2024年11月24日記)


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