今場所は新横綱豊昇龍にまず注目が集まった。初日、緊張で体が動かず、阿炎に押し出されたが、少しずつ調子を取り戻した。しかし中日に高安に敗れ、９日目に一山本になすすべなく敗れたところで休場。右ひじの蜂窩織炎を我慢しての出場だったが、無理はきかなかった。場所を引っ張ったのは高安。１０日目まで１敗を保っていたが、１１日目に霧島の前に完敗。それでも一番優勝に近いところにいた。１４日目、美ノ海に寄り切られ３敗を喫し、大関大の里に並ばれた。大の里は高安に苦杯をなめ、１３日目には王鵬に押し出されて３敗目。それでも１４日目には大栄翔を圧倒し、高安と並ぶ。４敗で美ノ海、新入幕の安青錦、再入幕の時疾風らが追う中、千秋楽は高安は阿炎を圧倒、大の里は琴櫻に完勝し、優勝決定戦となった。これまで何度も優勝のチャンスを逃していた高安は、今場所こそ悲願の初優勝なるかと思われたが、決定戦で大の里と土俵際の投げの打ち合いに敗れ、またも指呼の内にあった賜杯を取り逃した。大の里のここ一番での勝負強さが光り、大関として初めての優勝を果たした。老練のもと大関と、新進の現役大関との対決は見ごたえがあり、横綱の休場を忘れさせるほどだった。
中盤までは優勝争いに加わっていた尊富士が終盤失速、受け身に回ったときのもろさを露呈した。
三賞候補が発表された時には唖然とした。毎場所書いているので、あまりくどくどと書きたくないのだが、殊勲賞候補には１２勝で優勝した場合に高安、優勝したら美ノ海、安青錦、時疾風が条件付きで候補に上がる。美ノ海ら３人は、高安か大の里が勝てば候補から外れることになる。つまり自力ではどうにもならない条件。そんな馬鹿なことがあるか、と憤りすら感じた。また、高安は横綱と２大関をすべて下しているのだから、文句なしの殊勲賞で、優勝を条件にしたという理由が理解できない。結局殊勲賞は該当者なしとなった。技能賞は無条件で高安。これは当然だろろう。敢闘賞は新入幕で１０勝していた安青錦が自動的に無条件で敢闘賞。安青錦の受賞は、優勝争いに絡んでいたので文句なし。しかし、美ノ海と時疾風は千秋楽に勝てば敢闘賞。１４日目までの敢闘が、千秋楽の勝敗だけで無になるというのは、力士に対して失礼だと思う。美ノ海が大栄翔に勝って敢闘賞を受賞したが、時疾風は霧島に敗れ三賞を逃した。新入幕で１０勝なら自動的に敢闘賞、再入幕ならば１０勝していても三賞はなし。理屈に合わないと思うのは私だけだろうか。時疾風は殊勲、敢闘の両方の候補に挙がりながら、三賞はなし。最後まで優勝争いに残った力士に対してこの仕打ちはない。失速した尊富士が候補に挙がらなかったのは仕方ないとはいえ、今場所も疑問の残る三賞の選考であった。テレビ解説の琴風さんが、昔は１４日目までの成績で三賞は決まっていたんですがねえと疑義を漏らしていたのが印象的。私も琴風さんと同じ思いである。
カド番大関の琴櫻は前半戦はやはり先場所と同様、勝ちを意識しすぎて体が動かず序盤で３敗と大関陥落の危機であったが、中盤から持ち直し、１０日目で５勝５敗。そこから３連勝し大関陥落は免れた。しかし１４日目には平戸海に圧倒され、千秋楽には優勝争いのトップに立っていた大の里のまえに何もできなかった。８勝どまりに終わってしまった。来場所は気持ちを切り替えて優勝した場所の強さを取り戻してほしい。
大栄翔はあと１勝で連続二けた勝利となるところだったが、惜しくも最終盤に失速。突き押しだけの力士の弱点が出てしまった。新関脇の王鵬は前に出る相撲で大の里に勝つなど先場所に見せた実力がフロックでないところを見せたものの、惜しくも負け越し。金峰山は先場所とは別人のような相撲で大敗。首の怪我がまた再発したのだとしたら、来場所以降も不安定さは残るだろう。他には、ベテランの玉鷲や佐田の海が持ち味をよく出して土俵を沸かせ、翠富士は得意の肩透かしを連発して勝ち越し。負け越したが、宇良は負けても前転してみせるなど、独特の動きの良さで観客を魅了した。
十両では、新十両の草野が初日から１２連勝して優勝。まだざんばら髪の若手のスピード感のある相撲は来場所以降が楽しみ。
幕下では炎鵬が６勝して、来場所は幕下上位に戻ってくる。三段目まで落ちた朝乃山は全勝優勝。こちらも来場所は幕下に戻ってくる。怪我さえよくなれば、それぞれ実力は幕内、あるいは三役クラスなので、早い関取復帰を期待したい。
今場所は豊昇龍の休場は残念だったが、大の里が番付通りに優勝、また、腰痛で低迷していた高安が実力を見せつけて土俵を盛り上げた。そこに新入幕の安青錦の活躍など、楽しみの多かった場所だった。せっかくの大阪開催なのにチケットが取れなかったのは残念だが、ファンクラブ会員としてチケットを入手した転売ヤーをファンクラブから除名するなど、協会の毅然とした姿勢には拍手を送りたい。
（２０２５年３月２３日記）
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