大相撲小言場所


名古屋場所を振り返って〜琴勝峰が新しい会場で初優勝~

 場所前の予想通り、大の里は先場所までのようにはいかなかった。横綱豊昇龍の途中休場もあり、場所の途中で一人横綱になった重圧もあったか、11勝どまりに終わる。しかも4敗を喫した相手はすべて平幕。新横綱の金星配給4個は不名誉な新記録。勝つときは圧勝するが、敗れるときは悪癖の引きで相手を呼びこんでしまっていた。大関琴櫻も出足が悪く受け身の相撲が多くなり8勝どまり。
 前半戦を盛り上げたのは一山本。IGアリーナという名古屋場所の新会場での幕内勝ち越し第1号となる好調ぶりだったが、終盤戦は失速。特に、大の里を押し出したかに思われた一番が取り直しとなり、そこで敗れてからは押し相撲特有の負けだしたら歯止めがきかなくなる負けっぷり。三賞も逃した。
 中盤以降は安青錦、玉鷲、草野、琴勝峰、熱海富士ら平幕力士による優勝争いとなり、千秋楽に単独トップに立ったのは2敗の琴勝峰。3敗で安青錦と草野が追う展開となったが、千秋楽の本割で琴勝峰が直接安青錦を下して決定戦に持ちこませず優勝を決めた。相変わらずこれという型を持たない相撲だったが、今場所はそれがいい方向に働き、臨機応変の相撲で勝ち星を並べた。今場所に関しては琴勝峰に相撲の神様が下りてきていたという感じだ。殊勲賞と敢闘賞も受賞。
 最後まで優勝を争った安青錦は、常に一定の角度で態勢を保ち、安定した相撲を取っていた。そこが評価され技能賞。草野の相撲は十両から続けて勢いがあり、特に出足がよく、11勝で文句なしの敢闘賞と、その出足が評価されて技能賞。玉鷲は最年長金星と最後まで優勝争いに絡んだことで殊勲賞。新入幕の藤ノ川が千秋楽に10勝目をあげて敢闘賞。不戦勝の1勝が最後に効いた。ただ、相撲内容も小兵ながら気迫のある取り口で、勝ち星とは関係なく敢闘賞の価値はあった。
 惜しかったのは熱海富士。もう1日優勝争いに残っていたら三賞候補に挙がっていただろうに。ただ、今場所も実力をつけてきているというのを感じさせる相撲が多くみられた。若隆景は関脇で10勝をあげ、来場所は大関昇進のかかる場所となる。相撲内容を見れば、琴櫻よりも大関らしく見えるどっしりとした腰の構えで勝つ相撲が多くみられたので、来場所に期待したい。再大関を狙っていた霧島は日によって相撲にむらがあり、8勝どまり。強さを感じさせるという点では10勝をあげた高安の方が再大関に近いか。ただし高安には腰痛の持病があり、毎場所安定して勝てないのがきつい。
 十両優勝は三田。まだこれという型は持っていないが、今は勢いがある。下半身が安定しているのが強み。
 幕下では優勝した朝白龍、幕下上位で勝ち越した朝乃山と石崎の高砂部屋の3人が来場所の十両昇進を確実にしている。同じ部屋から3人の十両昇進者が出るのは初めてのことだという。
 今場所は、大の里のスタミナ切れ、豊昇龍の休場、琴櫻の不調など上位陣が優勝争いから脱落したことで平幕力士による混戦となった。最後まで残った琴勝峰は見事だったが、安青錦と草野との経験の差が出たという感じだった。ただ、こういう混沌とした優勝争いになった責任は言うまでもなく横綱大関にある。来場所はこの3名と大関昇進を賭ける若隆景の優勝争いが見たいものだ。

(2025年7月27日記)


目次に戻る

ホームページに戻る