読書感想文


光の帝国 常野物語
恩田陸著
集英社
1997年10月30日第1刷
定価1700円

 今さら私が感想を書くまでもない。昨年多くのSFファンから支持されたファンタジーの秀作である。
 常野と呼ばれる超能力を持った人々が街の中でその力を隠しながらひっそりと生きている。しかし彼らはその力ゆえにそっとしておいてはもらえず、また、ふつうの人々との違いに悩み傷付きながら生きてきた。
 その姿を10編の短編として書き連ねてきたのが本書である。オムニバス形式をとっており、各短編が次第につながりをもち壮大な物語と化していく。
 心優しき超能力者たちにより、読み手の心は癒されていく。作者は特に新しいことをしているわけではない。どちらかというと懐かしい感じさえする。ところが、これが不思議と新鮮なひびきを持って語られてるのだ。新しい皮袋にもられたコクのある古い酒といったところだろう。背景がしっかり作り上げられている。だから短編のひとつひとつに奥行きが感じられる。
 日本製のファンタジーとしては佐藤さとるの「コロボックル物語」 の系譜につながる第一級の作品だろう。海外ファンタジーの借り物めいたファンタジーが多い中で、このような作品に出会うと、なんだか嬉しい。
 ところで、このタイトルは荒巻義雄「帝国の光」とまぎらわしい。内容は全く違うというのに。「『光の帝国』と『帝国の光』ぐらいちがう」なんて例えを出しても誰もわからないだろうな。読者層が全然違う。

(1998年3月22日読了)


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