読書感想文


月の系譜 有明の鬼宿
金蓮花著
集英社コバルト文庫
1998年5月10日第1刷
定価457円

 「焔の遊糸」に続くシリーズ第5巻。外伝的エピソード。
 主人公は、中学2年生の女の子、直子。恋に憧れたり、明るくふるまっている彼女だが、実は商売が急成長して家に帰るのが遅い両親とはめったに顔をあわすこともない。家での話し相手は家政婦のみ。そのため彼女はとても寂しい思いをしているのだが、自分でかせを作りその気持ちを押さえ込んでいる。
 そんな彼女の左腕に救うのは蛇の姿をした蛭子神の精。その精の力を必要とする異界の姫、泉は下僕の鬼・榊に命じて蛭子神を直子から奪い取ろうとする。
 この物語の秀逸なところは、寂しさを押し殺した少女が蛭子神を体に飼っているという秘密を自分の心のよりどころとしているという設定にある。その他の設定は幾分類型的ではあるが、自己解放への流れなど、説得力がありそのような欠点を少なくとも読んでいる間は意識させなかった。本編のストーリーである泉の目覚めとうまくからませながら少女のストーリーを展開させていく手腕が光る。
 もう一つの短編はサイドストーリーの域を出ていないので、こちらはシリーズ読者向けのサービスという感じだ。

(1998年6月22日読了)


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