「フェイダーリンクの鯨」に続く、クレギオン・シリーズの第3巻。
スペースオペラお約束の宇宙海賊登場。この海賊、作者らしく、妙に生活感のある海賊だ。だいたい、大学教授が学会で認められない自分の理論を実証するために転向したという設定が面白い。男の持つ幼さとはこういうものなのだ。
幼さにかけては負けてはいないロイド・ミリガンだが、それゆえに宇宙マフィアに追われる身となる。メイだけは巻き込まれまいと絶縁してしまうのだが、ほんのわずかな期間でメイがなくてはならない存在になっていることに気付くという、これはお約束。ロイドとマージのピンチを助けにくるのがその海賊たちというのもお約束通り。
ふつう、これだけお約束通りが続くとご都合主義的な展開になってしまうものなのだが、その一歩手前で踏み止まっていて「待ってました!」と声をかけたくなるようなタイミングとなっている。全体の流れが自然なのがその理由ではないかと思う。その自然な流れを作るというのが実は非常に難しいことなのだ。
とはいいながらも、マフィアに狙われたらこの程度ではすまないんじゃないかと思わなくはない。第1巻でロイドという人間を紹介するために出したエピソードになんとかケリをつけておかなければならないというために書かれたような印象の残る巻でもあった。
(1998年8月6日読了)