読書感想文


聖母の深き淵
柴田よしき著
角川書店
1996年5月25日第1刷
定価1359円

 「RIKO−女神の永遠−」に続く、緑子シリーズ第2弾。
 母となった緑子は転勤して新しい環境の中で、署内の彼女に偏見を持つ成本刑事といがみ合いながらも、自分と子どもとその父親である明彦との間に家庭という人間関係を築こうとしている。
 そこへ、肉体的には男性ではあるが精神的には女性であるゆたから、行方不明になった親友の女性を探してほしいと依頼される。その女性は覚醒剤中毒となり、売春組織のもとで売春婦になっていた。組織を追う緑子は数年前に起きた乳児誘拐事件とその組織とのつながりを見つけだす。元刑事の私立探偵とともに、組織の中枢に迫る緑子。
 金と欲がうずまく事件の中で女たちを道具としてしか扱えない男たちの意識や、女性であろうとする男性の持つ”女性”観の変化など、現代社会において「女」であることがどういう意味をもつかという問いかけが、本書でもなされている。
 特に、母親となった緑子は「女」と「母」と「刑事」であることのはざまで揺れ動いているところに出会った男、山内煉の存在が本書を前作以上に強烈なものに仕上げている。煉は女性に対する歪んだ思いをもつ男として登場するが、その加虐的なキャラクターと競り合うことで、緑子には「女刑事」という枠を超えた凄みが感じられるようになるのである。

(1998年8月25日読了)


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