「聖母の深き淵」に続く、緑子シリーズ第3弾。
子どもの父である明彦と正式に入籍し、いったんは刑事をやめようとする緑子であるが、刑事連続惨殺事件の本部にはいることにより、否応なく「女」であり「母」である以上に「刑事」であることを思い知らされるのだ。
本書では殺人事件が裁かれるのではなく、警察という権力のある組織に所属する人間の容疑者に対する意識、冤罪で引っ張られていった被疑者に対する社会の扱いなど、有形無形の「権力」が、人間をどのようにおとしめていくかが裁かれているのである。
一人の人間のトラウマの深さをこれでもかこれでもかとえぐっていく、その筆致の凄まじさ。前作で異彩を放った山内煉が、本作でも重要な役割を果たす。
またひとつ大きな修羅場を乗り越えた緑子は人間としてますます深みを増していく。このシリーズの楽しみはそんなところにある。そして、知らず知らずのうちに、自分自身が持っていた「常識」という名の「偏見」をものの見事に叩き壊してくれる。自分はこのままでいいのかと、思わず我が身を振り返らずにはいられなかった。
(1998年8月25日読了)