読書感想文


冬の緋桜
霊鬼綺談
小早川恵美著
講談社X文庫 ホワイトハート
1998年10月5日第1刷
定価500円

 「封印された夢」に続くシリーズ第4弾。
 前作で高陽や勇帆と知りあった毬亜と柊子の双児の姉妹が新たにレギュラーに加わる。
 冬に狂い咲きする桜の木と赤ん坊の死に関する謎を解くというのが物語の本筋ではあるのだが、本書のテーマは実は別にある。高陽には母親代わりともいえる妖狐がいるが、その姿は高陽にしか見えない。彼が勇帆とつきあうようになってからはだんだん見えなくなってきた。それを不安に思う高陽の前に、謎の少年トモが現れる。彼もまた狐を連れているのだ。黒い狐に守られ、高陽を「同類」と呼ぶトモは勇帆と縁を切り自分と組むように誘い掛ける。
 本書ではここで自分の気持ちを見失い悩み惑う高陽の心を描くことがテーマとなっているのである。どんなに優れた「力」をもっていても、若さゆえに揺れ動く。そのような等身大のヒーローが主役であるというところに「青春小説」としての本シリーズの真骨頂を見る。
 「かっこよすぎる美少年」がスマートに事件を解決するのではなく、内面でうじうじしているかっこ悪さ、これですね。これは1巻から変わっていない。このシリーズに対する作者のポリシーなのかな。
 毎回書くけど、伝奇アクション小説としては派手なシーンがなくどちらかといえば平凡なのである。しかし、このようなポリシーがある間は、私はこのシリーズを評価する。

(1998年10月4日読了)


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