読書感想文


果南の土地 下巻 業果編
山下卓著
小学館スーパークエスト文庫
1998年11月1日第1刷
定価543円

 「果南の土地 上巻 暁鐘編」に続く完結編。
 八神亮介と果南に与えられた記憶は偽りのものであった。人類存亡のカギを握る果南。そして、彼女を守る使命をもった亮介。亮介が佐伯史朗の謎を探ることで何かが起こるのだ。それを防ぐために二人の記憶を白紙に戻し、新たな生活を送らせようとするのは、失踪していた占師フェイ。
 亮介も果南も見ていたフラッシュバックしてくる白昼夢は、二人の真の記憶だったのである。
 ここから先を書いてしまうとこれから読もうという人に対して失礼になる。だから、感想だけ書いておく。一応謎は解かれるし、果南の真の姿も彼女の持つ力も明らかになる。そういう意味では完結しているのだが、物語の中で提出された課題は全て先送りになっている。中途半端なのだ。肩すかしを食らってしまったのだ。
 作者のあとがきによると、本書は売れたらシリーズ化されるそうだ。だから、売れたらシリーズの3巻目から本書の続きを読めるようにしてあるし、売れなかったらこれで完結ということになってもいいような終わらせ方にしたのであろう。
 昨今の出版事情を考えると、やむを得ないのかもしれない。特に新人だと売れる売れないは賭けでもあろう。しかし、このような編集姿勢は読者や作者に対して失礼ではないだろうか。このような縛りがかかっていなければ、本書はもっとスケールの大きな作品になっていたと思われるし、続編が書かれなければ、この2冊だけでは意味をなさなくなってくる。
 正直なところ、現在のヤングアダルト小説の「売れたらなにがなんでもシリーズ、売れなかったら途中でも打ち切り」という現状を、私は苦々しく思っているのだ。出版社側の事情もわからないではないが、本書のような扱いを受ける作品がある以上、自分で自分の首を締めているというように思うのである。

(1998年10月6日読了)


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