「倫敦奇談」に続く伝奇オカルト第5弾。
今回の舞台は金沢。神隠しにあった孫娘を探してほしいという老女の依頼に森と敏生のコンビがあたる。兼六園で妖かしの尼僧に傷つけられる森。この尼僧が孫娘を隠した犯人らしい。動きのとれない森に代わり敏生が一人で解決しようとする。そうしないと森は「組織」から解任されてしまうのである。敏生は植物の精霊の子であるという特質を生かして解決へと向かう。そこには依頼人の老女の隠していた過去があった。
森と敏生のほのかなボーイズ・ラブが受けている原因なのだろうとは思う。今回は森が過去に愛していた女性のエピソードもでてくる。そこから考えると、森はその女性が死ぬ原因を自分が作ったという負い目を感じていて誰も愛さないと決意していたのに、敏生に恋してしまったので苦しんでいるというそこらあたりの苦悩というのがファンを引きつけているのだろうなという気がするのだ。
で、それ以外の部分は特にどってことないのだ。尼僧の呪いというのもなんだか不自然であるし、老女の過去もちょっと苦しい。この作者は男女の恋愛を書くのは苦手なんではないだろうか。伝奇アクションとしては巻を追うごとに見るべきところが少なくなってきているというのが率直な感想である。
例えば、「組織」の設定。今回、なんとなくその正体の一端を見せているようなのだが、やはり全体像がつかめない。なぜ森たちがその「組織」に所属していなければならないのか、その根拠も薄弱だ。だから、敏生が必死になったところで、それがどうしたという気になってしまう。これはシリーズにしなければそこらへんのいいかげんさも見えてこなかっただろうに、というところだろう。
(1998年10月8日読了)