「貘龍師・湟II 魔影兄弟編」に続くシリーズ第3巻。完結編である。
前作で魔影三兄弟を操っていた黒幕がいよいよ登場。隆慈の師匠の弟で貘龍師を仇と狙う人物も加わり、クライマックスへのお膳立ては整った。
前作の事件の後、旦の都、慶園を立て直すために朝廷内の改革をめざす若き官僚たちは、皇太子を旗頭に民を大切にする政治を行おうとする。彼らは義賊呉衛門とも接触し、民意を生かすための橋渡し役を依頼する。呉衛門は協力するかわりに最後の盗みをその官僚の一人、北員朝から行う。
しかし、彼らの思いとは逆に皇太子はこれまでの事件の黒幕、貘龍師・儡を策士としてそばに置き、皇帝の地位を魔力を使って手に入れ民を強力に支配しようと企てていた。北員朝らは皇太子に利用されているだけなのである。儡は実は湟の親族や隆慈の師匠をその手にかけてきた仇でもあった。
どうも話をきれいにまとめようとするきらいがあり、最強の敵であるはずの儡も、最後の最後までただのずるいおっさんという感じで強さを感じさせない。強さでは前作の三兄弟の方が上のような気がする。
もっと荒削りでいい。作品の持つパワーではシリーズ中では第2巻が一番だったと思う。シリーズを通してみれば、作者にはまだムラがあり。安定した力を発揮していないようだ。しかし、第2巻で示したように筆力はあるので次回作には十分期待できる。今度は「架空」の設定ではなく本当の中国を舞台にしたものを読んでみたいものである。
(1998年10月24日読了)