読書感想文


さらば愛しき大久保町
田中哲弥著
メディアワークス 電撃文庫
1996年8月25日第1刷
定価563円

 「大久保町は燃えているか」、「さらば愛しき大久保町」とくれば、「ルパンIII世」ですね。お好きですねえ。
 今回の大久保町はただの田舎町。ところが、そこに美しい王女さまが公式訪問するのである。王女さまは旅館の前で誘拐されてしまう。それを助けたのは心のやさしい、しかし何かに集中し始めると他のことが全くできなという青年、芳裕。なぜか彼はプロの誘拐犯を手玉にとる腕を持っている。王女と彼の命を狙う謎の一団が登場し、大久保町は戦場になる。はたして芳裕の王女への恋は成就するのか。
 前2作の登場人物も役どころを変えて登場。おお、スターシステムというわけですな。完結編にふさわしい豪華キャストだ。
 ストーリーや設定の強引さにはあきれるほどだ。王女さまも侍従も騎士団もみんな日本名というのは、すごい。でも、外国人なのだ。文化や習慣が違う。芳裕の恋を成就させるためにならなんでもしてしまう。ここまでやってくれるとかえって小気味よい。こういう小説のだと割り切って読めますからね。
 笑いが止まらなかったのは大久保町の情景に時折はさまれる作者の本音とも思えるぼやきだ。地の文で「お願いだからやめてほしい」やて、誰に言うてるんですか。
 シリーズ3冊を一気読みしたわけだが、3作とも心やさしくちょっとぼーっとした青年がかわいくて心もきれいなんだけどちょっとどこかずれたところのある女の子に恋をするという、青春小説の王道をいっているのですね。ギャグ武装していてそこにだけ目をやってしまいがちだが、心のあたたまる恋物語なのだ。こういう恋を若い頃にしてみたかったなあというような。

(1998年10月27日読了)


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