「カナリア・ファイル4 水蛇」に続く第5弾。
優等生である自分を嫌悪する少女、敦美は「綾瀬」の呪術師、樹浬より力を与えられ特別な存在になりたいという欲望のままに、友人たちを自分の手足として扱う。「夢告」という特殊能力を持つ少年を「あやせ」から守ろうとする有王たちを排除しようとするのだ。
本書で作者は「本当の自分」という虚像に近づこうとして樹浬に認められたと信じるが、実はその手駒に過ぎないという少女の姿を印象的に描き出している。首から下は作り物で「痛み」という感覚を知らない樹浬というキャラクターの方が鮮烈なイメージをもたらしていいはずなのだが、私には敦美の悲痛な叫びに感じるところがあった。
シリーズとしては、いよいよ「綾瀬」一族の主要なキャラクターが出揃い、有王たちとの全面対決が近くなってきたと感じさせるエピソードで、これまでのエピソードとの微妙なからみぐあいが心憎いほど決まっている。少しずつ、1本の大きな筋にまとめあげられていく重層的な構造で、読みごたえがある。
次巻が待ち遠しいシリーズのひとつだ。
(1998年11月8日読了)