超能力を持った女性3名をそれぞれ主人公にした短編が3編収録されている。
「朽ちてゆくまで」は、事故で両親を亡くし、また子どもの頃の記憶を失った女性が、育ててくれた祖母の死後、両親が撮影した自分の子どもの頃のビデオテープを発見する。そこで自分は予知夢を語っていた。両親は、自分の子の能力を苦にして心中したのではという疑念がよぎり、苦しみぬくが……。テープに残された映像の意味するものを解き明かしていく間の心理描写は見事。
「燔祭」は、不良グループに妹をなぐさみに殺された青年の前に現れた青木淳子という女性の物語。彼女は発火能力を持ち、自分を武器にして復讐するように申し出る。特殊な能力をどのように使うか思い悩み、自分を「武器」と割り切る淳子の存在感が際立っている。淳子を武器として使えるかどうか葛藤する青年を描くことが中心になっているため、淳子というキャラクターを生かし切れてないところがある。だから作者は、その後の淳子を「クロスファイア」で描くことにしたのだろう。
「鳩笛草」は読心能力を持った女性刑事、貴子が主人公。その能力を用いて捜査をし、地位を上げていった彼女は、その能力が少しずつ失われていくことに気がつく。力を失った時に自分には何も残らないと恐れる貴子。自分の存在価値というものを超能力をモチーフに描き切った佳作で、本書では一番心に残る。
超能力者がいかにその存在を悟られずに社会で生きていくか、その力をどのように使うべきかという問題提起は、平準化したものをよしとするような現代社会に対する問題提起といえるだろう。大げさな身ぶりでそれを示すのではない。しかし、ここに描かれる女性たちの姿には読者を引きつけずにはおかない存在感がある。
(1998年11月14日読了)