読書感想文


クロスファイア 上
宮部みゆき著
光文社カッパ・ノベルス
1998年10月30日第1刷
定価819円

 「鳩笛草」収録の「燔祭」の主人公、青木淳子が再登場。自分が助けようとした青年を見殺しにし、つれさられた彼の恋人を助け出そうと不良グループのリーダーを追う。とうとう見つけだして自分の持つ発火能力で殺そうとしたところ、そのリーダーも助けようとした女性も何者かに射殺されてしまう。
 利己的で他者を踏みにじる「平凡」な人々への憎悪を、淳子は「正義」と信じ次々と「処刑」を繰り返す。
 一方、警察の放火班刑事である石津ちか子と念力放火能力の存在を信じる牧原刑事は、淳子に殺された焼死体に不審なものを感じ取り、捜査を開始する。同じ発火能力のある少女、かおりとの出会いを経て少しずつ真相に近づいていく。
 強大な力を持ったものが「正義」をたてに力を発揮し、ついにはその力をおさえきれなくなる過程がきめ細かく描かれている。彼女を利用しようとする謎の組織をチラチラと見せながら、ぐいぐいぐいと読者を読者を引きつけていく。
 「燔祭」では少し中途半端な去り方をしていた淳子をまさに完全燃焼させようとしているようだ。淳子はどこまで突き進むのだろうか。彼女の葛藤を描きながら、下巻でのクライマックスを待つことになるのだ。

(1998年11月14日読了)


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