読書感想文


NANIWA鎮魂記
栗府二郎著
メディアワークス 電撃文庫
1999年2月25日第1刷
定価570円

 「NANIWA霊異記」に続くシリーズ第3弾。
 自分の描いたCGをホームページで発表する少年、吉野直也にメールを暮れる少女、繭子。長期入院をしているという彼女を見舞いに行った直也は、繭子がすでに病死していたことを知る。しかし、彼女からのメールを受け取ったばかりなのだ。霊能探偵、時夜鴒は、一言主の巫女、葛木未輪や沙原刑事とともに、少女の死と、そしてあちこちで起こっている突然死事件との関連を追って調査を始める。真也にメールを送りつづける繭子はいったい何者? 死の直前に繭子が出したEメールに謎をとく鍵が……。
 前作同様、電脳世界とオカルトを結合させ、そして、死病におかされた少女と純真な少年との交流を描いている。
 ただ、ストーリーはこれまでの2作よりも単純でいささか物足りないものを感じた。民俗学的な要素などをうまくとりいれているのが持ち味であったのが、ここでは死んだ少女の現世への心残りという比較的ありふれた設定であるのが残念である。
 この作者はアイデアで勝負するタイプで、特定の主人公のキャラクターから物語を作っていくタイプではないのではないだろうか。シリーズ物に向いていない人がなんとかシリーズを書こうとしているような印象がある。
 ネットの中をさまようEメールを視覚的に描写しているところなど詩情を感じさせる。力のある書き手だと思う。だからこそ、無理にシリーズを書き継ぐよりも単発物でいろいろなアイデアを生かした作品を発表してもらいたいものだ。

(1999年2月14日読了)


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