読書感想文


日輪のかけら
足立和葉著
小学館パレット文庫
1999年3月1日第1刷
定価429円

 「日輪の割れる日」に続くシリーズ第2弾。和葉と書いて「かや」と読ませてたと思っていたが、本書では「かよ」とルビがふってある。どっちや。
 前作の9年後が舞台。成人した藤原永手は、彼を慕う従姉妹の阿倍内親王が意識不明となった事件を解決するために、呪禁師の技で内親王の心に入り込む。しかし、そこには彼女の心はなく、誰かにかすめとられているという疑いが残った。犯人は前作で永手に敗れた新羅僧、皓心。永手は再び皓心と戦うことになる。皓心が永手と戦うのは、戦うことによって永手のことを独占したいという欲望から。永手の従者、田辺鷹野は皓心と同質の想いを永手に対していだいていることに気づき、心に迷いが生じ、皓心を狙いながらも返り討ちにあってしまう。そのとき、永手の発揮した力は……。
 前作は長家王の変という史実を下敷きにした伝奇ロマンであったが、今回は史実にはない事件を軸においているため、平城京が舞台のボーイズ・ラブ小説というような仕上がりになっている。皓心も鷹野も内親王も永手を独占したいという想いだけで行動を起こしているので、せっかくの歴史設定を生かしていないという感じだ。
 前作のように史実を踏まえてなお面白いものを書けるのだから、次作ではその路線に戻してほしいものだと思った。

(1999年2月23日読了)


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