読書感想文


慟哭の城XXX
田中啓文著
集英社スーパーファンタジー文庫
1999年3月10日第1刷
定価619円

 「蒼白の城XXX」の続きで、完結編。宇宙海賊ラ・ビットのボス、「ギザ耳」の正体を確かめるために脱出不可能な犯罪者収容所「XXX」に犯罪者をよそおって潜入したブルー。次々と「XXX」からの脱走計画を試みる囚人たちだが、いずれも失敗に終わり、ブルーは囚人である海賊シルバーに惹かれるものを感じるようになる。また、ブルーは囚人たちの間から所長ハイマンのスパイであると疑われ、陰湿ないじめを受ける。
 そのうち何者かの計画通り、「XXX」に一度に事故が起こりついには崩壊。「ギザ耳」の正体は。ブルーはぶじ警察官としての身分を取り戻し、愛するユミのもとに戻ることができるのか。
 本作は、めでたしめでたしの大団円、ハッピーエンドで幕を閉じた。みんな幸福になってよかったよかった。ほんとに明るく、希望に満ちた「アホは死んでもなおらないという現実を教えてくれる」という気分にさせられるような、心温まるエンディングでしたねえ。
 冗談ではなく、いやほんまに主人公がここまでアホというのも珍しいくらいアホ。実はそれだけアホやからこそ話が成立するのである。こんなアホが幸せになるというラストにはなるまいとは思っていたが、心配は無用であった。おさまるべきところへきちんとおさまったという結末。
 宇宙の脱走不可能な牢獄を舞台にいろんなアイデアをてんこ盛りにしたサービス精神たっぷりな作品。ただ、現在のヤングアダルトの傾向からは著しく離れているというのも事実。幸いなことに作者の今後の新作は大人向けのもの中心になるようなので、そちらでの活躍に期待したい。
 ついでに、「スーパーファンタジー文庫」で絶版になった諸作品をどこかで再刊してくれないものか。「十兵衛錆刃剣」のシリーズは絶対面白い。どこでもいいから再刊すべきである!

(1999年3月13日読了)


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