読書感想文


氷と炎 チョンクオ風雲録 その二
デイヴィッド・ウィングローヴ著
野村芳夫訳
文春文庫
1992年7月10日第1刷
定価621円

 「龍の帝国」に続く大河長編の第2巻。といっても、原書の第1巻を2分冊にした下巻なのでまだプロローグの部分ともいえる。
 欧州タンの忠実な部下、トローネン将軍による時間殺害をひきがねに、逆に拡散主義者は議会を掌握、宇宙開発の許可を得る。ヨーロッパ人による革命を目指す黒幕デュボアはこれを足がかりに革命の準備を進めることになる。一方、最下層から見いだされた天才少年キムはチョンクオが隠していた真の歴史を見いだすが、差別主義者たちの陰湿ないじめにあい人格を破壊されてしまう。欧州の次期タン李ユアンは侍女たちによって筆おろしをすませ、自信をつけた上で亡き兄の婚約者を妻に迎える決意をする。新たに登場したのはシティから離れて暮らす特権を持つベン・シェパード。彼には画才があるがその絵はモデルの真の姿を映し出す力を持つ。そのベンは自分の出生の秘密を探ろうとして一命をすんでの所で失うところになる。
 物語は拡散主義者の宇宙船を李シャントンの配下が破壊してチュンクオの七帝とデュボアの戦争が始まるところまで進む。
 大きな流れの中で重要な役割を担う若者たちが少しずつ成長していく姿を追うことにより、複雑な構成も幾分内容をつかみやすくなってきている。歴史を歪曲してまでチョンクオの安定を図る七帝と隠された真の歴史をあばきたてようとするデュボアの虚々実々の駆け引きも見所の一つ。
 この長大な物語の核となる人物がそろい、物語は少しずつ動き始めている。全体像が少しずつ見えてきて、面白くなってきた。

(1999年3月27日読了)


目次に戻る

ホームページに戻る