「戦争の技術」に続く大河長編の第4巻。
本書の主人公は2人。トローネン元帥の娘、エルカのエピソードが前半の大部分を占め、後半はタンの参謀よりも芸術を選んだベン・シェパードの大学生活の様子が語られる。
反逆者ディヴォアの放った刺客にもう少しで殺されるところであったエルカは、危険から逃れるために一族の故地である北欧に身を寄せる。そこで彼女は大自然に触れ、〈シティ〉のあり方に疑問を持つ。しかし、〈シティ〉に戻った彼女は政略結婚で酷薄な性格のハンス・エバート少佐と婚約させられることになる。エバートはトローネンや李ユアンの信任も厚く、その本性を気取られていない。しかし、エルカは人目でその本質を見抜く。
ベンは大学で、ともに真の芸術を求めるに足る女性キャサリンと愛し合い、自分の求める芸術を見つけだす。しかし、妹との近親相姦をキャサリンに知られ、別れなければならなくなる。
その他の動きとしては、李ユアンの妻、飛燕が若い夫に飽きたらず、西アジアのタン、祖マーと密通するが、ユアンはそれを知らず〈シティ〉の住民の脳に発信器を埋め込み反逆を防ぐ〈ワイヤリング・プロジェクト〉にかかりきりである。その計画には拡散主義者のもとから解放された天才少年キム・ワードが組み入れられるが差別的な管理官のためにその才能を発揮できない。また、反逆者ディヴォアをめぐり、革命組織〈平調〉内部で対立が始まる。そのディヴォアを狙う保安軍のカーとチェンはかつてエバートによって陥れられた過去を持つアクセル・ハーヴィッコを絶望の淵から助け出し、ディヴォアとエバートのつながりを探る。
ストーリーそのものはディヴォアの計画通りに七帝の体制が揺さぶられていくという流れになっている。その中で、エルカやベンたちがチョンクオの閉鎖された社会に対して疑問を持ち自立していく様子が丹念に描かれているところに注目したい。爛熟した世界を真に変革するのにふさわしいのは、若い為政者か、真実に目覚めた若者たちか、体制を謀略で覆そうとする策謀家なのか。その答えが出るのはまだ先であろう。
作者のねらいは社会を変革する力をどこに求めるべきかという問題であるように思う。この大河小説はそのための壮大な実験ではないだろうか。
(1999年3月30日読了)